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341話 神の失敗作

――ずっ。



「!?」



 異変に気付いたのか、大国護はその顔を強ばらせ慌てて振り返った。


 だが、もう何をしようが遅い。



 天井から顔を出すのは部屋全体を襲える数多の剣。


 これから逃れることは、より強くリンクした階層主と契約していおり、使用者である俺を除き不可能。



「くっ!まだ、だっ!」



 大国護の動きを見て剣を射出。


 薙刀でそれをいくら撃ち落とそうとも、剣という名の弾丸は無尽蔵に放たれ、守りの薄い箇所から次々と刺さっていく。



「こ、こうなれば!」



 大国護はとうとう諦めたのか、何本か弾いた後、急いで俺を突き殺そうとする。


 でも……。



 ――ぽた……。



「か、はっ……」

「上だけなわけないだろ。そんなことにももう気付けなかったんだな」



 大国護の真下から剣が生え、伸び、そのまま鳩尾辺りに深く刺さった。


 そしてそれを追って1本、また1本と大国護な剣が刺さっていく。

 普通の精神状態であればこの程度どうにか出来ていただろうに……。


 でもこれが探索者、純粋な命の奪い合いをモンスターと繰り広げてきた俺たちの戦いかただ。



「くっ、はは……。ダンジョンという異質な場で、敵地で、俺はなぜこんなになってまで武士道を守るのか……生き死にのかかった場ではプライドなんてゴミ同然。お前さんの言う通りそんなことまで分からなくなったのは、モンスターイーターと混ざったからなのか、それとも……」

「俺はそこまで――」

「いや、殺すことを最大級に楽しもうとしちまったからだ。あーあ、毎度毎度余計な職に就くのも全部、一番殺しを楽しめる場を求めて騙されてたからで……俺って男はいつも欲求に抗えない弱い奴だよ、本当にもう」



 大国護は身動きもとれず、苦しそうに血を吐いているというのにどこか楽し気に、諦めたように呟く。


 意外にもその眼には恨みやなんかはなくて……だんだんと感情さえも消えていく。



「そんで弱いから……また騙されるかもだってのに、誘惑に乗せられちまう。なんたって俺の全てを差し出す、それだけで最高の殺しを楽しる……この世風にいえばエンターテイメントを味わえるから。味わえる。味……喰う、混ざりものたちを全部、スキルを全部食う……俺が頂点」



 大国護の声は次第に邪悪なものへと変化していく。


 見た目も……目は赤く、さっきよりも少し若く見える。

 同じ人間の特徴を有している……が、一点だけ違うところを見つけた。



「それ、なんで? ……もしかして、お前も――」

「これで! こいつらの全部を食って!もう、何者にも支配を許さない!支配するのは俺! 俺だけなんだ! だからお前も……そう、まずはそのスキルを食わせ、ろっ! う、あああああ!!」



 俺の言葉なんかまるで気にする様子はなく、そこにいたそいつは暴論を叫び、おもむろに髪をかき上げた。


 するとその一点……やけに長く伸びた耳が付け根まで露になる。


 顔も誰かに似ているような気がするが、とにかくこの耳……見覚えがありすぎる。



『神の失敗作……はてさて、こいつはどう私を楽しませてくれるのかな?』



 天井に向かいどの人格よりもモンスターらしい雄叫びを上げるそいつは、もうしばらくは口を開かないはずだった大国護の主の声をかき消し、異様な雰囲気でぶつぶつと聞こえない声で何かを呟く。


 攻撃のチャンスに思えた、だがその凶悪な目から放たれる視線に俺はある光景を思い出してつい足を止めてしまうのだった。

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