339話 威光
「――よっとぉ……」
――ごん。
考える隙も与えん、と言わんばかりに、大国護は薙刀の石突部分を一発で地面に深く深く突き刺した。
それから素扱部を両手で強く握ったまま体重を乗せ、側転の要領で俺にその足、踵をぶつけようと身体を浮かせた。
「こ、いつ……」
その間僅か1秒ほど。
俺は慌ててしまい、手を離すという判断ができずそのまま身体を横に反らした。
初撃はなんとかなった、だが俺の顔を見て嬉しそうにした大国護はまた息を吐き、重力に逆らっているとしか思えないような動きを見せる。
空中で、腕だけで身体を支え、しかも軌道を変えて、雑に、だけれど確実に俺の頭を蹴飛ばす。
威力はほどほどで意識は飛ばない。
ただ身体を吹っ飛ばすには十分で、俺は無意識のうちに薙刀の刀身を手放していた。
薙刀のリーチを考えるとまた距離を空けられるのは良くないんだが……体術もおかしいだろ、こいつ。
「つうっ……」
「……。薙刀っつう武器の特性を活かすため、相手との距離を広げる術も当然叩き込まないといけねえ。だからこんくらいの体術、徒手なんかもそれなりってわけなんよなぁ。ま、見る奴によってはため息が溢れるほど荒い、我流……いんや喧嘩殺法でしかねえんだけどよ」
喧嘩殺法って、こんな喧嘩する奴がその辺にいたら困るが……ま、とにかく実戦用に慣らされてるってことは理解した。
特に蹴りの1発目や薙刀でのフェイント、敢えて全力じゃなくて5割くらいの力で、しかもそれと悟られないようにして次の攻撃に繋げるあの一連の流れは上手すぎた。
何をしてたのか、詳細には分からないが実戦経験の数でも俺より上なのかもしれない。
「にしても、だ……。刃を掴みにくる胆力、頭を蹴り飛ばされたってのに大してダメージの入らねえ丈夫さ……。あんまし、余裕こいてはいられねえな」
「……」
動から一転しての静。
お互いに武器を構えながら見つめ合い、攻め時を伺う。
さて、この間合いをどうしたものか……。
まだ剣生成のスキル効果は残っているけど、発動の瞬間がむしろ隙になりそうで怖いんだよな。
捨て身で攻める、か?
『――あー、もうじれっっっっっったい!! 因縁とか、男の戦いとか、分かるけど! 待ってる! 見てる! こっちの身にもなってよ、遥様!!』
「うおっ……」
引き続き思考に耽ろうとしていると爆音でハチの声が頭の中を通りすぎていった。
まだ戻ってくる気配はないけど、それでもここに参加したくてたまらないのか、俺の視線からこの戦いを見守って、というか観戦していたらしい。
このイライラしてる感じ……スポーツ観戦して酔ったおじさんが野次を飛ばしてるみたいでなんか嫌だな。
「どうした?考え込んでおかしくなっちまったか?仕方ねぇなぁ。さっきの攻防のあと、しかもその殺気の中あんまし突っ込みたかないが……リーチの差と歳の差がある分、ここはリードしてやら――」
『――地形変化。突貫工事だし……流石にもうこれくらいは手を出すわよ』
不思議そうに話し出した大国護を無視して、ハチが階層主としての権限を勝手に用いたらしい。
地面が細かく揺れて、盛り上がる地面は壁になろうと天井まで伸び始めている。
「ちょ、おい……。というか、そこからでもそんなのできるようになったのか……」
『当然! 私は階層を神様から直々に預かった竜! なんかびびってるみたいだけど、そんなよく分かんないのよりよっぽど偉くて凄いんだから!だからそっちのあんた! 今はあんたにも聞こえてるでしょ? ……。すぅ……。ここからでも飛びっきりそれを……私の威光を放ってあげるわ』




