337話 だったもの
「つう……。こりゃあ、中々に痛いな……。腕がへし曲がるかと思ったぜ」
薙刀を片手持ちに変えたこいつは一切の躊躇なく自分の腹にその爪を突き刺した。
いや、あの跡を見る限り爪を利用することなく、手だけでそれは可能だった……つまり手刀で、これだけの破壊力を出せるということか。
スキルイーターの身体は硬く、とてもじゃないが俺ではそんな芸当不可能。
しかも、腕がへし曲がるくらい自分の身体を叩き、いじめられるとか……精神面は異常、か。
「でもおかげで引っ込んでくれたみたいだ。最近の若い奴は我慢ができないのが多いらしいねえ、って俺もまだまだイケる歳だとは思うんだが……。な、お前さんもそう思うだろ?」
まだ血は出ているが、痛がる素振りはなりを潜め、スキルイーターだったものは顎に手を当てながら渋めに格好をつける。
カッコイイの基準がイケメンというよりハンサムに、なんならダンディによっていて、残念ながら見た目以上に老けて見える。
なんというか、圧倒的にクールが足りないんじゃないかな?
「……。そんなのは、まぁどうでもいい。なんでそうなったか、仕組みを教えてもらえるか?」
「年上タメ口とは……中々威勢がよくていい!ただ頭でっかちはモテないぞ」
「別にモテたいなんて思ってない。それよりも――」
「わーった、わーった。傷が治る時間をもらってるんだ、そんくらいは……話してもいいよな?」
スキルイーターだったものはこちらの意図を組んで誰かに問いかける。
俺じゃないのは間違いない。
となると、さっきの声……会長やこいつよりも老けた声の主か。
『――驚く顔、嫌がる顔、悩む顔、苦しむ顔……。フフフ、どれも悪くはないな……。分かった、好きにしろ。えーっ……確かお前の名は……大国護だったか?』
「そう呼ばれてた時もありましたねえ」
『そうか。ならば大国護、その後は十分に暴れ私を楽しませてくれ!』
「言われずとも」
スキルイーターだったもの……大国護と呼ばれるモンスターの返事を不気味な笑い声だけで済ませると、その声の主の気配のようなものが消えた。
この光景を見ているらしいが、音声を届けるために身体でも移動しているのだろうか?
仕組みを聞き出そうとして、また謎が増えてしまうとは思っても見なかったな。
神測のタイミングも失ってしまって……なんだか逃げられた気分だ。
「と、言うわけで主からお許しが出たから答えてやるよ。えっとぉ……モテる方法だったか?」
「違う」
「冗談! 冗談に決まってるじゃないか!はぁ……そんじゃ俺の仕組みを教えてやる。ま、別にそんな大したもんじゃないんだけどよ……。よーするに俺は、この薙刀そのものみたいなもんで、お前さんも知っての通りこびりつく情報とか色々はこいつに食われた」
大国護は腹をポンポンと叩きながら笑って見せる。
それ、そんなに笑える話か?
というか、薙刀がこいつ自身?
「で、だ。こいつの中で混ざってるもんと共存して、もうやってられっかって時、主さんが呼んでくれたのよ。俺の名前をその役目の名前を。だったらもう善悪は関係ねえ。救ってくれた恩を返すために俺は主を、その手駒を護ってやらねえとならねえ」
「本意じゃないのか? なら――」
「殺して殺して殺して遊んで……じゃねえ、護ってやらねえと」




