332話 祭壇
魔力が地面に流れ、染みていく。
そうして土が埃が、この辺一帯の地面がまるで自分の身体の一部かのように愛おしく感じる。
一方的な愛、押し付け、エゴ、受ける側からすれば勝手すぎる感ではあるけど、ダンジョンが、スキルという仕組みがこれを正当化してくれる。
その効果を託してくれる。
「……剣生成:誕生の祭壇――」
「サセルト思うか!!」
俺のスキル発動を止めようと、苛立った様子でスキルイーターは薙刀を振った。
風を切る音は轟音となり、襲い掛かる。
これを視認することは難しいことじゃない、それに避けることだって。
だけど、俺の煽りにも近い発言のおかげもあってこいつは今、自分の力にこだわっている。
スキルによって他人に何かを仕掛けたいんじゃなく、強くなった自分を誇示したい、その欲求で頭はいっぱい。
であればこんな選択があってもいい。
また陽葵さんには怒られるかもしれないから、ハチには黙っておいてもらおうか。
――ぎゅ、ち……。
地面に置いていた手とは反対の腕を差し出す。
するとスキルイーターはそんな甘い誘惑に誘われて、舌を滴しながら、餌を貪ろうとする犬のように俺の腕目掛けて薙刀を振り下ろした。
あれだけの切れ味があった薙刀、加えて剛力を得たスキルイーターによる全力の一太刀。
それでも俺の素の防御力は最早人間の域を出てしまっているらしく、さっき切り裂いた岩のように簡単にとはいかない。
筋に食い込み、切り落とすためにやや前後する刃はどうしようもなく生々しい肉の音を立ててしまう。
それでも決して止まることがなかったのは薙刀が至高の逸品だからだったなのかもしれない。
「……」
「ハ、はハっ! どれダケ優れ、便利デモ、扱いが遅すギる! あまりに、練度が低イ」
俺の腕を切り落とし、笑うスキルイーター。
優越感に浸り嬉しそうなその顔はおぞましいことこの上ない。
だが、それでいい。
そうして数秒、欲求に抗えない化物になってくれることが俺の狙いなんだから。
――ザッ。
「な!? 止まっていな――」
土が掻き分けられる音が微かに響く、それに気づいたスキルイーターは身を引こうとするが、その背ではもう俺の攻撃が始まっていた。
「い゛っ……」
まずスキルイーターの背に刺さったのはダンジョンの地面を素材にし、射出された10の剣。
クオリティ関係なしの粗雑なものではあるが、弾かれることなく突き刺さってくれる。
とはいえ、流石にリンドヴルムを御していた個体だ。
これだけでは、致命傷にならないほどの厚い皮膚を持っているようで、完全に動きが止まることはない。
だから今度は数を増やして増やして、その薙刀ごと絡める。
わざわざ時間を労しただけはあった。
今なら何千、いや何万だって瞬時に剣を作ってやれる。
それだけの魔力を俺は流してやった、流すことができるようレベルを上げた。
「コンな、即席ノ駄作で俺ヲ――」
「千本……」
呟いてから1秒ほどか、ある人からすれば生み出されたというよりも突然現れたと思える早さで、地面と繋がったままである千本の剣が薙刀と、それを持つ腕を隠すように刺さり、絡まった。
どれだけスキルイーターが力を込めようともそれはうんともすんともいわず、その場に止まり拘束を続ける。
「タフだけど、もう終わりだな」
「く、ソ! ……マダ! まだ! 飢えがあレバ、心ノ臓が鼓動スル限り、俺ハ求めるコトヲ止めたくハない!」
「そうか、ならとっておきの一本でその鼓動を止めてやるよ」
俺はそう告げると落ちた自分の腕に視線を落とした。




