327話 恐怖支配
地上の人間による、神宮主導のダンジョン街スキル収集。
それはスキルイーターを操ることで行われたものであり、スキルイーターたちに自意識はなかったと思われた。
しかし問題になることを恐れながらこっそりと行っていたそれのはずなのに、スキルイーターの中でただ1匹、それを破って直前まで殺人衝動を露にし、補食にまで至ろうとした個体がいた。
それこそが俺たちの出会ったスキルイーターで、リンドヴルムに乗るこいつ。
神宮たちにとってもイレギュラーな存在であるがため、早々に処分されても良い個体だと思ったが……その狂気を利用され、以前よりも強く、人らしく、おそらくは進化さえ起こった。
神宮は人らしくなることよりも、モンスターらしさを足してスキルイーターを作ることに集中したが、こんな成功例があるのならそっちの方向で研究を進めれば良かったのでは、と一瞬考えた。だがこいつが発言した時それはぶっ飛んだ。
なぜなら、それはこいつが変わっていない証だったから。
あの時のこいつの目からは恐怖とともに愉悦が覗いていいて……殺すこと、俺たちをいたぶることに快楽を得る下衆な奴だってことにもなんとなく気づいていた。
喋りはしなかったが、そんな相手だとわかったからこそより憎く思い、忘れることもなかったのだと思う。
そしてそれが、奴の本性が消えていないと分かれば……それどころか表層に浮かんでるとなれば、暴言だってなんなく出てくる。
「早々に殺してやりたいよ。お前のことを」
「気が、合ウナ。フフ、ならバご期待二答えて」
片言な日本語を扱いながら因縁の敵であるスキルイーターはリンドヴルムの背でパチンと手綱を鳴らした。
よく見れば鞍まで付けられていて、他の竜のような威厳が損なわれている。
まるで奴隷。こんなのを見てしまえば、あの優しい京極さんは膝から崩れ落ちてしまうかもしれない。
「だから、お前はさっさとそこから降りろ!」
「何!?」
スキルイーターはずっとリンドヴルムに乗っていたため分配の対象にすることができない。
だが、そのおかげでしばらく地面を歩いていたリンドヴルムだけを対象にすることができた。
大分力も時間も必要になりそうだけど……いける。
「なルほど、そうやッて仲間ヲ……。だが、その前二お前ハ死ヌ――」
「う、あ゛あああああああああああああああ!!」
手綱を鳴らされただけでなく、鞭でその身体を叩かれたリンドヴルムは途端に絶叫。
ひどく汗を流しながら全速力で飛来し、その牙を障壁に押し付けた。
ガリガリと削れる音がする、呻き声が聞こえる……このスキルイーター、リンドヴルムを恐怖で縛って戦わせているのか。
「う、う゛あっ!!」
「くっ! このままじゃ……。まだ、リンドヴルムを振り分けれないのかい?」
「あと少し……だけど、それが遠くて――」
「じゃあ私が時間稼ぎをして……この竜の、お母さんの相手もしてあげます」
「そこは私たち、だろ?」
障壁が限界に迫り、もうダメかと思われた時だった。
俺の背後にはいつの間にか京極さんと、宮平さんのお父さん率いる宮平一族が総出で現れていて、障壁に向かって腕を伸ばしているのだった。




