326話 イメージ
風が強く吹き、白と若干の緑によってそれは可視化される。
風に色はない、つまりこれはあくまでイメージが具現化されたものだということ。
そしてこの広範囲に展開された防御壁も宮平さんのイメージが多大な影響を及ぼしている。
とはいえ、魔法の威力や発現が元のレベルや魔力量を越えることは通常あり得ない。
それだけ宮平さんの持つ『誤解』というスキルが強力で、この防御壁の要となっていることが分かり……その負担も大きいことが読み取れる。
「ぐっ……」
ドーム上に展開された防御壁は敵の攻撃が触れる度にその箇所がぐるぐると回り、散らしてくれる。
時間が少し経って、ようやく物理攻撃を始めるスキルイーターたちに関しても、ただ攻撃を防ぐだけでなく弾き飛ばしてくれるおかげで次の攻撃まで時間を稼いでくれる。
ただその素晴らしい効果を発揮する防御壁の光景とは反対に発動者である宮平さんの額からは汗が滝のように流れ、目は充血、膝はカタカタと笑っている。
「――分配」
そんな宮平さんの頑張りを無駄にしないためにも俺は後方に下がりつつも、対象を次々と指定の場所に割り振っていく。
この階層はハチが主として成り立っていることもあって、割り振った場所をそれぞれ別の空間とすることができたから、1度割り振ってしまえばそこから抜け出るのは容易じゃない。
だけど……。
「はぁはぁはぁ……思ったよりしんどいな。これ、あとから来る奴らも追加ってなると、大分消耗するかもしれない」
これだけの数、しかもリンドヴルムと会長が連れていたスキルイーターたちには耐性があるのか、そのそもそもの割り振りがスムーズに行わせてもらえない。
探索者たちを移動させたときとは比べ物にならない疲労感。
時間も、決して遅いというわけではないけど……思ったよりもかかっている。
「防御壁……ちっ、邪魔なモノを。無効化はマダか」
「……風を読み解いています。まもなく解除できるかと」
「そうか。ならバ、私が手ヲ貸すことハないか」
状況は悪いが、それでもなんとか数を半分近いところまで減らせることに成功、敵の攻撃も緩み始めた頃、ついに静観していたリンドヴルムが竜の姿で近寄ってきた。
謙虚に、優雅に揺らめくその翼は荒々しい他の竜たちとはまた違う、異質さを醸し出す。
ついついそんなリンドヴルムに目を奪われそうになってしまうが、俺はそんなリンドヴルムに命令を下す奴を探し見る。
契約者の会長とは違う、リンドヴルムを御する存在を。
「……こいつは、スキルイーター?」
そこにいるはずなのに、どうにも視認することが難しいそいつは見ようとする意識を高めることでなんとか姿を捉えることができた。
身体つきは普通の男性といった感じではあるものの、鋭いその爪や犬歯はモンスターのそれ。
そして何よりもその邪悪な眼光は敵である証であり、俺たちの因縁である存在だと教えてくれた。
「前に見たときよりも無駄におしゃれに……人らしくなってるのか。あれだけダンジョン街の人たちを、俺たちを襲ってくれた化物のくせにさあ。一体ベースは誰だ?それとも……食い取り込んだか?」
「……。やハり、こノ姿にナったことハ正解だッた。オ前タチノ怒ル顔ハ極上のスパイスだ。並木、遥」
「……下衆が」




