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322話 ブッキー

『山吹……一応主だからこんなこと言うのはどうかなって思いもしたんだけど……何を言ってるの?』

『縄張り……。ううん。山吹からは人間の匂いがぷんぷんする。私、間違えるとは思えない』

『まぁまぁ、お二人さんはご両親の拘束?のために構えててくださいよ!多分あんまり急ぐことはないような状況にはならないと思うけどな!』



 そう言って訝しむ2人に笑いかけると、山吹は少し凄む。


 途端、画面越しですら感じることのできる殺気が広がった。

 それにあてられた探索者たちはこの階層まで敵がやってきたのかと勘違いして、慌てるほどだ。



 映像は魔力出力されている。

 それに干渉できる力を持つ……。



 そういった干渉と言えば初めてハチが俺にコンタクトをとってきたことを思い出してしまう。

 そう、これはハチと似た――



『――バチ』



 魔法陣からその手を差し出していたハチを思い浮かべていると、まるで自分の頭の中で鳴ったのかと錯覚してしまうほど強烈な電撃音が通過。


 それに驚き一瞬瞼を閉じ、そしてまた映像を見ようと瞼を開く。



 そんな1秒もかからない行動だったのだが、俺の目に映り込んだそれは最早俺の知っている山吹の姿ではなかった。



『これは……はは、はははははっ!いつかは捕獲を……なんて思ってはいたけど、こんな最前線で、最序盤で出会えるなんて! しかも、このエネルギーは桁違い……。こいつをものにすれば作戦はより簡単に……それだけじゃない、これを今の内に俺だけのものにしてしまえば、いずれは他を出し抜――』



『――すぅっ……』



 山吹だったはずのそれから放たれた、というか漏れでた細い細い光。


 それは高笑いする神宮の右足に射すと、肉が焼ける音も骨が割れる音も出さないまま静かに貫通。


 恐らくはあらゆる耐性を持ち合わせているであろう神宮を、高い防御力を備えた神宮を、豆腐に箸を刺すかの如く簡単に。



『う゛っ……』

『これ、まずいかも。私たちも一旦逃げて……苺ちゃん、ご両親は申し訳ないけど――』



 神宮のうめき声が遅れて発せられると、ベアトリーチェは山吹だったそれが暴走していると判断したのか、大量の汗を流しながら後退る。


 直接見る場合と映像で見る場合では、今の一瞬で感じる恐怖に差があるのだろう。


 あの苺ですら足を細かに震わせている。



『――あのさ。両親を、って話だっただろ?でも色々調整が利くっていたって、今の俺じゃノーダメージは無理かもしんない。わりいけど前言撤回で急いでもらってもいい?』



 ただならない雰囲気に包まれる周囲、それをかっ消すようにいつものちゃらちゃらと軽い口調が『あれ』から聞こえ出す。


 エネルギーの塊で、無数の回路の終着点となっている光の玉から。


 あれが山吹の本来の姿?

 いや、どう見たって不完全。


 あれはまだまだ発展する。



『……山吹、見直した。うんうん、特別にぶっきーって呼んであげてもいい』

『山吹だからぶっきー? 相変わらず可愛いね、苺ちゃん。そしたら……私もそう呼んでいいかな? あ、べ、別にもっと仲良くなりたいなんか思ってないんだからね!』



『――名付け……。そんじゃありがたくその名前もらいましょうか! ……俺は元50階層主、今はこの階層の主に、それそのものになった雷吹竜カヅチ……改め、真っ直ぐストレート! 不器用上等のブッキー! てなわけでよろしくな、お相手さんら』



 はっきりと竜という言葉を発した山吹。


 するとその光の玉に亀裂が走り、その割れ目には中から鋭い爪がかかった。

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