321話 なあなあ!
「神宮……」
『なんか進みが悪いから外の守りも下ろすことにしたんだ。だから俺もすぐにそっちに行けるから、楽しみに待っててね! って、これをどれだけの奴隷……人たちが見てるかなんて分からないけど』
悪戯にダンジョン街の人たちを挑発するような言葉を残して神宮はゆっくりとその場から歩き始めた。
『ベー姉、先にあれをどうにかしないと、かも』
『まさかこんなに早く諸悪の根元が登場なんて思わなかった。余計なサプライズはいらないのに』
神宮の登場で、流石にここで戦っている場合ではないと思ったのか苺とベアトリーチェは1度その場から離れて山吹と合流しようとする。
山吹もそれに気づいたようで、コツコツスキルイーターと戦う手を止めて合流を急ぐ。
その間にもスキルイーターたちが階段に駆けて行くが、数は大分減っているし、こちらで対処できる量のように思える。
魔力の温存も考えてここの罠は放棄。
だけど、もう目当てである苺の両親が見つかっているんだからそれ以降の罠はガンガン使うとしよう。
あれだけの量ならもしかすると一掃できるかもしれないし――
『――ドン!!』
そう考えながら、11階層以降の階段にある罠の様子を確認しようとすると、今度はやけにデカい、スキルイーターの面影がほとんど見受けられないモンスターたちが唐突に10階層へ降り立った。
『あれもスキルイーター?ベー姉、どう思う?』
『力だけなら五分五分。すごく厄介。あれを相手しながら、苺ちゃんのご両親を捕まえるのは厳しいかも……』
『うん。ちゃんと気絶させて連れて帰るのは難しい。でも、ちょっといい考え思いついた』
『いい考え?』
『2人なら結構簡単だと思う。だけど、他のが邪魔』
辺りを見回して困ったように頭を掻く苺。
本人は本気で困っているのだろうが、表情があんまりないことと、独特の口調のせいで緊張感に欠ける。
それに、なぜだか堂々と胸を張ってる山吹がいるおかげで面白くさえ……って、山吹の身体あんなに大きかったか?
回路の幅も広がって、さっきよりもぎゅんぎゅんと勢いよく魔力が通っている。
『なあなあ! 3人ならもっと楽だって思わないか! あいつらに……神宮の野郎に【今度こそ】とんでもないもの見せてやるぜ!』
『……さっき、大したことなかった』
『……契約してる身ではあるけど、その……新手をどうにかできるほどの力があるとは到底……』
神宮の姿を確認し、ため息が溢れそうな苺たちとは反対に、ヤル気満々な山吹は俺に任せておけと胸を叩くが、あの軽い調子と電気攻撃の通らなさ加減で苺とベアトリーチェに心配の表情を浮かばせてしまう。
正直俺も不安。
こういう時の山吹って天然ボケというか、抜けてるというか、頼もしさを感じない――
『――ま、このままじゃそうなるよなぁ。ってことで、この階層をそろそろ本当の意味で手中に収めて縄張りにしますか。条件は今の今でクリアしたんでな。そんでもってお気に入りではあったんだけど、修業体も解放できると……いやぁ、しゃべっちゃ駄目、すぐに疲れるわ、魔力は全然使えんわ、身体がべらぼうに重いわで最悪だったよ。でも……この日を思い描けば、神宮って人間を驚かせ泡を吹かせられるってなればどんだけでも耐えられるのが俺って生き物なんだよな』




