320話 嫌な久しぶり
その言葉を皮切りに苺は振り上げた斧を振り下ろす。
それを見て先程とは若干異なる、どこか安心したような笑みを見せたベアトリーチェは、続けてその長いつけ爪のような氷で地面を引っ掻く。
すると触れた場所にはどこからともなく氷が張り、弧が描かれていく。
しかも、それは蛇のようににょろにょろと伸びて苺の両親を襲った。
『ふっ、面白イ』
苺の斧を跳ねて避けたこともあってか、最早両親からはそれを避けようという考えが飛んだらしく、ただ飛び上がった状態でじっとそれを見つめ……舌舐めずりを1つ。
蛇に見えた氷が旨そうだったのか、それとも……スキルイーターとしての本能が湧き上がったのか。
ともあれ、その顔は不気味としかいいようがない。
『よし、そのまま拘束――』
『ハゼテ、見せて』
蛇を模した氷を操り、その脚に巻き付かせたベアトリーチェはそれを見て前進、苺とともにその隙をついて攻撃を仕掛ける。
だが焦る様子をまったく見せない苺の両親は両手を合わせてゆっくりと開く。
合わせて氷の蛇はぼこぼこと顔や腹を膨らませて……爆発。
完全なコントロール下にあるであろうスキルイーターでなくともこれくらいの大きさ、或いは魔力の塊であれば同じようなことが出来るらしい。
『つっ……』
『でも、この斧は止まらない』
氷の破片が突っ込む2人を遅い、服や肌を傷つける。
それでも致命傷にならないと見ると、2人は攻め手を急ぐ。
戸惑うことなく、斧は苺の両親の両手首を、ベアトリーチェの氷の爪は顔面の中心に注がれる。
『痛いなぁ……。チョットダケ。常時硬化、やっぱり便利』
どちらの攻撃も確かに当たった。
だけど苺の両親からは血は出ていない。
その体表に変化は見えないが、スキルによる防御は欠かしていないらしい。
他のスキルイーターと比べて破格の性能……これも素材となった苺の両親が影響しているのだろうか?
『――苺、イチゴおおおおおお!!』
『『だあああああああああああ!!』』
角、氷爪、斧、それぞれが相手の急所を狙って器用に振り回され、時には氷が、時には咆哮が、時にはスキルイーターの爆発が映像を彩る。
故意にこの戦いに割って入ることができるやつなんて敵味方関係なしにいないだろう。
「――なにはともあれスキルイーターの間引きは出来ているみたいね……遥君、こっちはこっちで準備をしちゃいましょ。そのうちここにも敵がやってくるから」
「は、はい――」
長引くであろう戦闘を他所に俺はスキルを発動させようと壁に手をつく。
しかし、その瞬間映像に苺の破れたポケットから種が1つ落ち、それを拾うシーンが流れた。
そしてその男は不思議そうに種を観察するとその辺のスキルイーターに1口食べさせる。
その影響か、スキルイーターは一瞬人の顔を見せたが、耐えきれず絶命。
『うーん、これは使えないかな』
『あ、あいつ……』
その様子に気づいたのか、苺はその人物に視線を奪われる。
『ああ、そっちはそっちで楽しんでてくれていいから。そいつはあんまりにもやんちゃでもう手懐けられない失敗作だからさ。……やぁ、みんなお待たせして悪かったね』
そんな苺を適当にあしらうと、そいつは画面いっぱいに収まるように歩くと一礼。
邪悪な笑みを俺たちに見せてくれたのだった。




