319話 ぶん殴ろう
『――パンッ!』
軽い、あまりにも軽い破裂音が映像から流れ出て、鼓膜を僅かに揺すぶった。
『ぐっ……』
『ベー姉!』
対照的にベアトリーチェはしてやられたといったように、苦悶の表情を浮かべる。
なぜなら音の正体は膨張したスキルイーターの爆発、命をかけた一撃であり、地面を深く深く抉る程の威力をもっていたからだ。
自爆……とは違う。
破裂したスキルイーターは引き続き攻撃を繰り出そうと身を捩っていた。
つまり自分の死など考えになかった、誰かに爆発するよう仕掛けれられた。
『――タフな、お友達ね。苺……』
誰か……それは不敵に笑っているこの苺の両親で間違いないだろう。
恐らくは回路を利用した魔力の増幅により、スキルイーターをコントロールするスキルを手に入れたのだろう。
そしてそのコントロールコマンドの中にはスキルイーターの強化……というか力の増幅があって、それを極限まで高めることで爆発させた、と考えるのが妥当な気がする。
じゃあそもそもなぜそんなことが出来るようになったのか……それは多分あの種族が影響している。
『でもね、私たち、俺たちが、一緒になるのに……それはいらない』
苺の両親の頭からもニュッと角が生え、口からは牙が剥き出し、オーガの特徴を露にする。
そしてしばらく脚に力を込めたかと思えば、瞬く間にその場から姿を消した。
『やっと動いた。いいよ、私そっちのほうが得意だから』
爆発により所々穴が空いた氷の翼をベアトリーチェは自ら折ると、軽度に火傷した箇所をペロッとなめて、体勢を低くする。
その顔はどこか楽しそうで、苺のそれに似ている。
仲間を殺された経験のあるポチと比べると、ベアトリーチェの方が戦闘を楽しむ余裕があったらしい。
……それか甘える苺に付き合ってたからってだけかもしれないけど。
『――パンッ!』
今にも駆け出しそうなベアトリーチェの正面近くで再びスキルイーターの身体を用いた爆発が起きた。
だが今度はそれによるダメージを狙ったものじゃなさそうだ。
というのも、その予兆があまりなく、無駄に煙が多い。
なんというか……雑さが見える。
『目眩ましね……』
『があっ!!』
煙で、見えなくなった映像が途端に晴れた。
そして気付けば消えていた苺の両親が背後からその角でベアトリーチェの顔面を貫く寸前。
『――キィン』
これはもうダメだと思ったその時、金属が擦れ合う音が鳴り響いた。
『ベー姉いじめるのは2人でも駄目。……その目、多分余計なものが混ざって、濁ってるんだ……。でも負けないで。私も手伝うから。力一杯叩いて2人に、完全に……起きてもらう』
金色に煌めく角を斧の腹部分で受け止める苺の目にもう迷いはない。
弱々しくなった両親を助ける、そんな正義感満載な気持ちはどこへやら、苺は目覚めが悪いを起こすため、めんどくさそうに思い切り斧を振り上げる。
『苺……。あ、が……。一緒に……。その肉をちぎってワタシノカラダ二、マタイッショニ……』
『これ、大分他のに犯されてるね。苺ちゃん』
『うん。だからとびきりをぶち込も、ベー姉。さっきのでわかった、2人はそのくらいしても死なない。もう、私を……苺をおいてこうとしない』




