318話 氷爪
「強い……あの子こんなことまでできるなんて……。話した時には全然分からなかった」
「あ、はは……。第1の妹分も第2の妹分も兄貴分の俺なんかよりもよっぽどたくましいや。あんなに心配していたのが馬鹿みたいだよ。適材適所、か……まったく、こんな派手に暴れられたら報告書の作成手伝いも、企業やチームからの勧誘を断るのが大変そうだ」
「でも勝手に動いたの始末をさせられたり、駄目だった時の責任とりよりよっぽど良くないですか?」
「そうだね。そう思えば2人とも兄貴思いのいい子たちなのかも」
「俺には宮平さんもいい兄貴に見えますよ」
「ふふ、誉めても何も出ないって」
ひたすら驚く陽葵さんとは対照的に、宮平さんは場を圧倒する2人に安堵しながら自虐。
俺の言葉も笑って返せるくらいには余裕が戻ったようだ。
それにしても、いくらスキルが昇華したとはいえこれだけの効果と範囲で、使用者のベアトリーチェに反動がないはずはないんだけど……なんだって余裕なんだ?
そういえば今もなおスキルを発動させて、スキルイーターたちを倒す苺も同様に息さえ乱れてない。
まさか……あの回路が作用している?
『――増幅、増幅、増幅……』
『あ、やりすぎは駄目――』
ベアトリーチェがそれを言葉にする度に内側から凍るスキルイーターたちが増え、そのつららも高く派手になって視界を覆っていく。
それによるダメージを危惧したのか、苺は咄嗟にベアトリーチェに注意を促すが、瞬く間にスキルイーターたちは凍って、苺の両親であるスキルイーターにも霜がかかった、その時……。
『増、幅……』
苺の両親だったそれは確かに人の言葉でそれを呟いた。
すると、周りの氷が急速に溶け、スキルイーターたちが動く、だけでなく……その頭には角が生えた。
そして回路を愛でるように撫で回し、嬉しそうに苺たちを見ると生き急ぐように走り始めた。
『なんで、凍らない……』
『私たちが手を抜いていい相手じゃないよ、苺ちゃんのご両親は』
そんなスキルイーターたちを見て驚愕する苺とは異なり、ベアトリーチェは画面越しでも鳥肌が立ってしまうほどの鋭い目付きで構え、飛び出た。
『ベア姉危な――』
ベアトリーチェの思わぬ攻め手にスキルイーターたちは動揺することなく角を差し向けた。
するとその角はパリパリと電気音を立たせながら勢いよく伸び、ベアトリーチェを串刺しにしようとする。
予想外の攻撃に苺は咄嗟に飛び上がり、スキルを中断。
ベアトリーチェに声を掛けたのだが、それも中断。
『――ピキッ……パキン!』
『私の武器はそんななまくらとは違うから』
というのも劣勢かと思われたベアトリーチェは自分の指をペロッと一舐め。
その唾液を利用して一本の鋭い氷柱を産み出すと、すべの角を受け止めた……だけでなく冷気と氷を伝播させて凍らさせるとあっという間にそれらを折ってしまったのだ。
『直接自分の体液……氷化が最も早く強い液体ならなんてことないの。そう。この偽物の角とか、不出来なあなたたちくらいなら』
そういいながらベアトリーチェは奥に見える苺の両親をじっと見つめた。
『お友達? ……。邪、魔……』
それに気づいたのか苺の両親は不機嫌そうに呟く。
状況は再びベアトリーチェたちが優勢、かと思ったその時……角が生えたスキルイーターたちの身体が急激に膨らみ、光を放った。
これは、ベアトリーチェのスキル効果……じゃない!




