317話 貫く
「あの2人いつの間にあんな仲良く……。いや、それよりもあの種は……」
「遥君が41階層よりも下でとってきたアイテムよね? 私が試した時はそんなに効果がなかったけど……」
「え? もしかして使ったんですか?」
「危険なものだって聞いてたから先に調べたほうがいいと思って。毒味役をあの2人に任せるわけにはいかないでしょ?」
「だからって陽葵さんがそんな危険なことしなくても……」
何か問題でもといったように首を傾げる陽葵さん。
俺たちの周りでも特に幼く見えるあの2人を前にすると姉御肌が爆発してしまうようだ。
それは陽葵さんのいいところだけど……流石に心配が勝つって。
「当然ですけど、陽葵さんは大事な人です。あんまり無茶しないでもらえると助かります」
「……ご、ごめんなさい」
申し訳なさそうに、でもちょっと照れるように素直に謝る陽葵さん。
さっきまでのカッコ良さ溢れる姿とは反対に苺たちのような女の子のそれが窺える。
この期間陽葵さんは常に俺の近くにいて、度々似たような場面になることがある。
これが嫌ではないんだけど、どうもぎこちなくなって気まずいんだよな。
こんな時どうしたらいいのか……ダンジョンで戦うことの倍は難しいんじゃないか?
『――ガリ』
俺たちがどぎまぎしていると苺とベアトリーチェは手に持った種を思い切り齧った。
果実ではなくあくまで種だから相当に固そうだ。
確かあの男が言うには人間性の強化が大きくなって、能力の変化幅は下がっているんだっけ?
それで中毒性もないものだとか……49階層やベアトリーチェの菜園とは比べ物にならないような改良をきっとあいつはしているんだろう。
50階層よりも下、人間の到達が確認されていない場所で。
『――く……。あぁ……』
『ふぅ……。苺ちゃんのお父さん、お母さん以外は邪魔だから』
思考に耽りそうになっていると、映像では苺とベアトリーチェの2人の様子が明らかに変化していた。
背丈は伸び、凹凸もしっかりとしてすっかり大人の女性……興奮した声とは反対に陽葵さんのようなベテラン探索者のそれを感じさせる。
人間性の強化はどうやら大人をベースにしているらしい。
『響き、震え……落ちて』
ベアトリーチェのスキルによって動けなくなったスキルイーター、さらにはその後ろや2人を無視して進んでいくスキルイーターたち、それに語りかけるように苺は言葉を発すると地面に手をついて細く長い息を吐き始めた。
すると映像までもが細かく揺れ動き、スキルイーターたちは自分で自分の身体を抑え始めた。
――パリン。
そして間もなく口から氷の花を咲かせていたスキルイーターたちのそれが赤く染まり、弾けた。
続けて吐血しながら地面に倒れ込んでいくスキルイーターたち。
『ぐ、おぁ!!』
これは不味いと思ったようで、何匹かのスキルイーターが腕を膨らせ、伸ばし、さらには翼を生やして飛行。
中には光線のようなものを吐き出そうと、遠距離から仕掛ける個体が湧き出る。
『邪魔って言ったよ、私。……可哀想。でも苺ちゃんのご両親と違ってあなたたちは死ぬしか救われる道がないんだね』
再び氷の翼をはためかせたベアトリーチェは高く飛び上がると回路に手を当てながら一言呟く。
『増幅、血氷』
すると苺や自身を襲おうとするスキルイーター何匹かの身体の至る所から血のつららが体表を貫いて現れ、瞬時に絶命してしまった。




