309話【矢沢視点】侵攻準備
「それで? 侵攻に必要なスキルイーターの準備は終わったんでしょうか?」
「3割方は……。流石にこれだけの数を『隠して』揃えるのは難しいですね」
「本当に……。ま、制圧したはずのダンジョンの1つに異常が起こっていて更なる反乱分子が湧き出そう、となればそれを管理する俺の上司である父さんが何を言われるか分からないですからね。大変でも内密に済ませないと」
「大臣という立場でもですか」
「当然。トップが『あれ』のままじゃ、今までのようにはいかないですよ。それに……」
「それに?」
神宮さんは困ったように机に置いてあった新聞に目を落とした。
確か今日の見出しは『解放軍また1つダンジョンを占拠』、だったか。
「ここ最近またダンジョン奴隷を仲間にしようと、国で管理しているダンジョンにもあれやこれやと手を出してるみたいで……解放軍の奴らが今回のことを知れば必ず首を突っ込んでくるでしょうね」
「解放軍……。久々にこっちに戻ってきて知識が乏しいんですけど、それらは制圧できないんですか?」
解放軍。
ダンジョンに奴隷を送り込み、その資源を国が占有することに反対している団体。
彼らは主にダンジョン出身の者たちであり、地上にも関わらず法を破りスキルを使用してまでもダンジョンの行きを阻止したり、ダンジョンに潜入して奴隷を連れ出したりなどする連中だ。
その数は日に日に増え、今ではここ『日本』で新たな国を築くほど。
少し前までは停戦していて、互いに貿易も行い、和解寸前といった様子だったらしいが……あれがトップ当選してからはまた戦争の火種になりかねない行動を起こしているらしい。
「残念ながら奴らは日常的に探索を行っていたスキルや魔法使用における精鋭の集まり。数で上回っていてもそう簡単に制圧はできない。まさか『分配』に頼りすぎた代償がこうして仇になるなんて思わなかった。彼らはのスキルはオリジナルであるから、効果が高くて進化もする……こちらの研究が大成しないことには大きくうって出ることはできないはずです」
「そうなんですね……」
「そんなに憂うことはないですよ。それどころか、この状況は非常に好ましいくらいで」
「というのは?」
神宮さんは両肘を机に乗せ、手を重ねると不適に笑った。
普段の紳士的な話し方と、気さくな態度からは想像もつかないような悪者顔。
きっとこちらの様子をモニター越しで見ているときもこうして笑っていたのだろう。
「どうやら最新のスキルを使った調査の結果、今回攻めるダンジョンに面白いものがあるようで……どうやら、それはモンスターを強化し、人に寄せられるものだとか」
「そんなものが……私がいたときには見つけられなかったのに」
「あ、別に矢沢さんを責めているわけではないので安心してください。……とにかく、です。それを手にすることができればスキルイーターの強化、更には好きな人の見た目に造形し、奴らの中に紛れ込ませることだって出きるかもしれません。地上の人間の判別に敏感な彼らであっても、これには対応できないでしょう」
「モンスターによるスパイと侵攻ですか……。確かにそれが成功すれば私たちの地位は――」
「向上! 民衆に押し上げられ、『あいつ』を引きずり下ろすことも可能かもしれません。いやはや、今度の侵攻が待ち遠しいですね、矢沢さん」
そのあまりにも悪どい笑い顔に今度は声を出すことができなかった。
ああよかった、これを、モンスターや探索者ではなく、人の皮を被った悪魔を敵に回すなんてことがなくて。




