30話 決行
「わかった! わかったから、そんなに魔法を使いすぎるな。無駄に疲れるだけだぞ」
「はぁはぁ……。それもそうね。……。あ、やっと変身し終えた……」
恥じらいから、『水弾』の連発をしていたハチはようやく、人間に似た姿に戻り、落ち着いてくれた。
これでようやく作戦の準備に取り掛かれる。
「いいか。事前に話した通り、ハチはか弱いフリをしてくれ。きっと人間たちは最初困惑するだろうが、その姿が人に近い、しかも弱いとなれば、襲ってくることはまずまずない。それも、ハチがオロチに襲われているとなれば助けに駆け出す可能性さえある。いいか、作戦終了後、ダンジョン街を自由に動き回るためにこれは必須。俺が合図するまではもどかしくてもなにもするなよ」
「分かってるわ。こんな感じにすればいいのよね。――あぁ、た、助けて、だ、誰かぁ……。な、仲間もたべられちゃって……私、私……」
「上出来だ。それで人間と竜たちが戦闘。頃合いを見てその仲間である俺が登場するから、竦み上がった状態の演技をここで終えて――」
「大丈夫大丈夫もう完璧に頭に入っているから。それじゃあ、そろそろあの子たちにも出てきてもらいましょうか。1匹じゃない方がいいのよね?」
「敵役は多い方が、絶望感があっていいだろ? それに、万が一人間が酒を利用してきた場合、1匹だけだと心配だろ」
「そうね。酒にやられた状態だと、死ぬことはないにしろ傷が残ったり、再生力が遅くなったりってことも起き得るから。普通少量含んだくらいなら大丈夫なんだけど……。人間って馬鹿みたいに酒をストックしてるから困るのよ。といってもあの焦り方からして大分飲み干せたとは思うけど」
「そう言えば一時酒が高騰したような……。一体前に街を襲った時にどれだけ飲まされ――」
『神測。種族、人間との接触まで残り……3km』
「な……。想定外だ」
「ど、どうしたの?もしかして……」
移動中の暇な時間を利用して、学ぶことができたスキルの応用。
名付けるとするならば『自動測定アラート』。
俺が設定した条件、時間、場所、それに合わせて『神測』は自動発動が可能だった。
1度死んだ時も自動で『神測』が発動していたから、常々こういった使い方も出来るかも知れないと思っていたが……この、ユニークスキルは便利すぎる。
と、今はその便利さに感動している場合じゃない。
俺の予想を裏切って、人間は凄まじい速さでオロチの討伐に向かってきている。
復習心によるものか、それともダンジョン街に絶対踏み入れさせないという正義感からか。
とにかく討伐隊の人たちのやる気には感服だ。
とはいえ、前に『神測』した地点からあまりに進みすぎている。
かなり強力な探索者が先導している可能性が高いな。
「討伐隊であろう集団がもう近くまで来ている。数は約15人。もしかすると、様子を見に来ているだけって可能性もあるが、ここで作戦を実行するぞ」
「了解。出ておいでみんな」
ハチが他の竜たち全員を出現させた。
申し訳ないがこいつらは今回やられ役。
後でたらふくカップ麺を食わせてやろ――
「まだ遠いけど……見えるわね。人間の女が多いみたい」
「ハチは目がいいんだな。作戦に移る前に……その目借りるぞ」
ハチの目を借り、人間がいる方角を見る。
すると……そこには俺の見知った人間。
その強力な探索者が目に入った。
「……陽葵、さん」
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