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299話 特別だ

「なんで……傷は塞がっているのに」

「俺には出来すぎた力だったってことなのかもな。もっと効果の高いあれが持っているだろう種を食えば……いや、それでも駄目そうだ。俺は、普通じゃないフリをしていただけの偽物にしか過ぎなかった。結局その資格を完璧なものにすることができなかった……。だから新しい階層主をダンジョンは選んで、この力を強制的に返却させた」



 グレンデルは今にも消えそうな声しか発声できなくなると、絶えず口から血を吐き出す。


 塞がっていたはずの傷口からもポタポタと血が溢れ始め、それは何もできない普通の生首へと変わろうとする。



『――私たちは神様から直々に階層を賜ったわ。己の強さを示すことで。だけどあなたはそれをしなかった、できなかった。だから前任者から渡されてもずっと仮のままだった。縄張りとしての力が弱かったのもそれのせいかも。……でもね、仮であっても階層主としてそこを預かったのは事実。自分のことを偽物だなんて言うのはよしなさい。それは神様、このダンジョンの創造主を貶すことにもなりかねないから』



 少し厳しい口調で、でも自分と同じ位を授かった相手を立てるようにハチは注意を促した。


 いつもテンション高めのダメダメお姉さんだけど、今日は俺から見ても威厳がある。



「この声……そうか、竜の『人』、か。俺はそこまで届かなかったけど……そうやって肯定してもらえたなら……まぁ、良かったよ」

「嫌、ご主人様……ご主人様!!」



 グレンデルの目が細くなり、眠そうな表情へと変わっていく。

 それを見たポチはそれをさせまいと必死に声をあげる。


 涙が溢れて、声は震え続ける。



「モンスターが、そんなに泣き続けるってさ……やっぱりお前はおかしい。俺とは比較にならないくらい仲間意識が強い。モンスターはダンジョンからすれば使い捨ての駒だってこの身体に刻まれているはずなのに……。俺はあれだけ一緒にいた、リッチーになったあいつが死んだときだって怒りはしたが、泣けなかった……。きっと、お前は、あのオーガも最初から俺と違っていた……特別な存在だ。竜たちにも劣らない、きっと、その優しさは人間以上……。胸を張って生きろ」

「あ……あっ……。折角……折角戻ったのに……どうして……」

「俺自身は目的を果たせなかった。本当の願いを叶えられなかった。だから……お前が、代わりに……。せめてあのコロシアムにいる連中を、頼む。あれは人格も言葉もあって……人とも話し合うことのできる良い奴らだ。だからお前が、守ってやってくれ……。それでいつか、互いに尊重できる仲に……」

「……」

「駄目か?」

「……ううん。じゃなくて……分かりました」

「ありがとう。良くできた、出来すぎた配下だよ……。最後に……その顔を近くで……」



 ポチはグレンデルの頭に顔を近づける。



「はは……。こんな、べっぴんになってたのか、よ……」

「ご主人様……」



 グレンデルの目は完全に閉じ、呼吸音が聞こえなくなった。



 するとポチは赤くなった目でそれを艶やかにじっと見つめ、血まみれのグレンデルの口に自分の唇を静かに重ねたのだった。

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