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298話 遅い気づき

「もう……あのまま、一生話せないと思った」

「ぐ、おおおっ! ……。……。……。ちっ。なんだってこんなに力が強くて、俺よりも人らしいんだよ……。あーあ、こんなことならあの時殺しておくべきだったよ」


 

 グレンデルはそこから抜け出そうとばたついて見せるが、思ったよりもポチの腕力が強かったからか諦めるように息を吐いて穏やかな口調となった。


 あの種を食べ、どうしようもない奴となってしまったかと思ったが、威厳というか、階層主としての風格は持ち合わせているらしい。


 まぁ物騒なことを言いはしているけど。



「みんなを殺して……。人間になることってそこまでのことだったの?」

「……ああ。あの強さは憧れだ。俺たちは決まったスキル、決まった進化先、決まった生き方しかできない。だが、人間はそれらが自由。強さの伸び代が無限大なんだ! だから俺はそれを手に入れて、新たな人間として頂点に立って……」

「……それで、そのあとは?」



 グレンデルは何かに気づいたように言葉を詰まらせた。


 そして、そんなグレンデルを質問で詰めるポチ。



「それでそれで……。俺はもっと強くなって……ダンジョンの外の……」

「うん。私たちはそうやって強くなって外からやってくる人間を殺すことが役割。でもね、ご主人様はずっと殺したいじゃなくて、なりたいとか、憧れとか、そんなことばっかりなの。だから本当の目的は別なんじゃないのかなって……。それがこの種に、その力によって誤魔化されているんじゃないのかな?」

「……う、うあ」



 グレンデルは何か痛みで感じているのか、呻き声を上げ始めた。

 とても辛く、悲しい声……。



「あの時、リッチーの、友達のお墓に手を合わせていたご主人様は何を思っていたの?」

「俺は、人間の強さを得て、それで……今度は仲間を、守れるようにって……。殺し合いをさせないため、に。俺は……」

「……。そう、だったんだ。ううん、なんとなくそうだと思ってた。だって、ご主人様はなんだかんだ言って私を殺さなかった。笑っててもそれは本心じゃないみたいに、見えた。むしろ無理矢理に見えた。無理矢理口角を上げているように、ね。だからそれを何度も何度も繰り返して、癖にしようとしてたんじゃないかな?」

「あ……」



 2人の間に沈黙が走る。

 そして、グレンデルの瞳は潤み始める。



「なんで、そんなことに今更気づいて、思い出して……」

「しょうがないよ。あの種が悪さしてたんだもの」

「でも、お前は……」

「多分、強さへの執着が薄いからそうなりきれなかったんだと思う」

「そう、か……。俺は、仲間の青いオーガを連れてかれて、殺されて……あの時からもう、強さに固執して……。人間を求めていたはずなのに、その反対によりモンスターらしい、ダンジョンの仕組みに囚われていた、んだろうな。種は、それを覚醒させるための装置で、紛らわしく人の姿を与えて……。あぁそうだ、俺はあの青いオーガが、ただ……好きだったんだ。それに、お前を……」

「やり直せる。それに気づけたんだから、きっと元に――」



 ――ぽた……。




『――41階層から50階層までを統括する仮のモンスターが正式なモンスターに変更となります』



「え?」

「か、はっ……」



 和やかな雰囲気が辺りを包んだかと思うと、グレンデルは吐血。

 そして、だからといって待ってくれることはなく、アナウンスは淡々と俺たちの頭に情報を伝達した。

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