297話 来い
「――神水剣:多乗剰斬型」
今にも爆発しそうなグレンデルの身体を俺は容赦なく斬る。
1回、2回、3回……。
一見すると大したことのない普通の剣撃、だがその度に次元を曲げる数百の切断事象が起こる。
そうすることで溜まった電気は炸裂するよりも前に細々に切り刻まれて霧散する。
『レベルが上がりました。分配対象のレベルも上がりました』
そうして各部位が霧散する度レベルアップのアナウンスが響き渡る。
「――これじゃ、間に合わない……。ちっ、電磁移動」
爆発が起きないことに舌打ちをすると、グレンデルは頭だけとなったもののスキルを発動させて器用に、素早く移動を開始した。
目指しているのは階段……これよりも下に向かって、それで自分の身体の再生を待つつもりか?
でも、だからってそこが自分にとって安置だとは限らないだろ。
「はぁはぁはぁ……。ん、ぐ……。あ、ぐ……。駄目だ。もう変化はない。ここにあるものじゃ……。あれが、道具があれば……。それか、あいつがここに来てくれれば……。いや、今の俺なら元階層主とコンタクトがとれるのでは――」
49階層ほどではないものの50階層にもそこそこの数の白い花は咲いていた。
グレンデルは移動しつつそこから種だけを齧りとって噛み砕く。
だがもう種の効果を上限まで受けているからなのか、グレンデルに強化されている様子もなければ、2つに分かれる様子もない。
それでも諦めたくはないグレンデルはまた電気を纏う。
何かを呼ぶつもりなのか、ボソボソと電話をするように少しだけ高い声を発する。
「流石にこの惨状で新しい強敵を相手にするのは……辛すぎるな」
完全に停止した女性、ポチの半身と血まみれのポチを見て俺はそう判断。
重すぎる脚を動かすのは気だるいが、呼び出される前にグレンデルを仕留めないと。
「頑張って追いついてくれよ、俺の脚――」
「その必要はないぜ。あいつは墓穴を掘った。あんな弱った身体で、まだ戦おうとするなんて……。自分でつけ入る隙をバンバン作ってくれてやがる。……こい!!こっちに!!その磁力はもうこっちのと対になっちまってんだよ!!」
いつの間にか俺の背後辺りに立っていた山吹はその右手をグレンデルのに向けて、さっきまで激しい戦闘に加わっていなかったのが嘘のように、まるで主人公のように堂々と叫んだ。
「な!?」
するとグレンデルはこちらに引き寄せられ、その顔に焦りを浮かばせる。
これで、ようやくこの探索も終わりだ。
気になることは増えてしまったが……一息つけるのがこんなに嬉しいなんて、出発前は思ってもいなかった。
あ、そういえば山吹が契約するモンスターを見つけてなかったか――
「最後は、私が……。お願い、絶対逃がしたりしないから。少し話をさせて」
俺がこちらに引き寄せられるグレンデルを今度こそ殺してしまおうと剣を振り上げると、息を荒気ながらポチが間に割って入った。
「ご主人様……」
そして俺が攻撃を中断すると、ポチはグレンデルを包み込むように優しく両手で受け止めたのだった。




