296話 剣がスキル
――パリ、パキパキパキパキ……。
「う、ぐ……。あ、これ、なら……」
「え? な、なんで!? あなた、分かってくれたんじゃ……」
血の剣が極端に減った。
しかも残り降るそれもぶよぶよとし、ゴムのように弾んで地面に落ち始める。
それによってグレンデルの身体はみるみる内に回復。
ポチと女性による氷の固定も段々と剥がれている。
もって、あと10秒かそこらってとこかな。
「私たちのことはどうなってもいい!!だから――」
「だからとっておきを使う。全身全霊の一撃だ、悪いがポチの身体が残るかも分からん。ごめんな。もっと強くて器用なやつならどうにかなったかもしれない。……さて――」
ポチに謝罪を告げると俺は重たい脚を動かす。
この剣を作成する際、相当な魔力が消費された。
それはこっちの意思とは関係なく他で発動していたスキルが停止されていくほど。
それでも展開されていた魔法陣はいつの間にか消え、俺の右腕から生えるようにして作られその剣は、今もなお魔力を持っていく。
そうなれば脚が重たいのは当然で、正直意識を保つのすら難しい。
これ、俺じゃなきゃ扱うことはできない代物だ。
「これはまず――」
――すっ……。
剣が触れた感覚が、斬った感覚がほとんどない。
でも確かにグレンデルの首は斬れ、その後ろにいたポチの腕も綺麗に切断されている。
この剣は俺の腕の代わりであり、俺自身。
だから流水によって十分な魔力が混ざり合うことで、この剣自体が何かしらのスキルとなる。
スキルを扱える剣、じゃない。
剣がスキルになる、スキルが剣になるのだ。
そしてそのスキルは神測が最適と勝手に判断した『多乗剰斬』。
つまりだ、俺にすら1回にしか見えなかったその一太刀は実は100回以上の斬るという事象を反映したものである。
ダメージを加算、まとめただけじゃない。
間違いなく斬ったということになったのだ。
同じ箇所を何度も、何度も何度も何度も、この剣があの一瞬で。
次元を曲げるほどの一撃であり、当たっていないにも関わらず、余波だけでポチの首に多くの傷を作り……その反動として俺の筋肉遅れてが悲鳴を上げる。
自然治癒なんてものが挟まる余裕なんて、もちろんない。
「あ、が……。……。……。ふ、ふふふ」
ゆっくりと落ちていくグレンデルの頭。
しかしそれは悔しそうに喚くのでもなく、黙るでもなく、音が漏れるようにして笑った。
同時に膨れるグレンデルの身体。
そう、グレンデルはまだ死んだ扱いになっていない。
それどころか、身体に溜め込んだ電気を解放させて……この場を吹っ飛ばそうとしているらしい。
そういえば俺があの光線を邪魔したあと、爆ぜたような、焦げ痕がグレンデルにはあった。
多分だけどあの時この自爆を思いつき……自分は頭部さえ残っていればなんとかなる、と理解したのだろう。
良く見ればグレンデルの頭は切断面が既に塞がり始め、このまま生存できるように、新しい器官を生み出そうとしている。
――じゅる。
そして口角を上げての舌舐めずり。
もうその身体で俺を食うことを想像しているらしい。
だけど、残念。
「この剣はスキル、或いは魔法として独立可能。だから、同じ種類のものを物体として捉え……斬れるんだよ」




