29話 恥じらい
『――はぁはぁはぁ……。ふぅ……。も、もうそろそろ着くわ。ここを上ったら準備を始めましょう。な、なんだか、はぁはぁ、んっ……。ドキドキするわね』
『半日動きっぱなしだったっんだ。疲れているだろうから、ここからはゆっくりと行けばいい』
『でもスキルで確認したら、人間の群れが近づいてるって言ってなかった?だとしたらちょっと焦った方が……』
『そもそも人間はここまで早くダンジョン内を移動できない。もう暫くは大丈夫だ。……。モンスターってのはせっかちな部分、我慢のできない習性があるから、ハチも今後は気を付けた方がいい。場合によっては足元掬われるぞ』
『確かに……。私、遥様との戦闘でもう足元掬われているものね』
時刻は深夜1時過ぎ。
俺たちは、ようやくダンジョンの4階層までたどり着いた。
途中の氷雪地帯や溶岩地帯には、上階へ進めそうな水路がなく、ハチが縄張りにしていた30階層から20階層までの道のりよりも大幅に時間を使ってしまっていた。
といっても俺が普通に探索をすればそこでさえ2日掛かってしまうと測定されてしまうのだから、ハチによる移動はあり得ないくらい速いのだけど。
『それじゃあ一旦外に出すわね』
『ああ、頼む』
大きな嗚咽と共に俺が座っていた場所は激しく揺れ、それによって浮いた俺の身体は、あっという間に上まで、まるで吸い込まれるように移動する。
飲み込まれるときも思ったが、俺場合まだ気体になったりすることもできないから、どうしても乱暴な方法でしか、体内と外を往き来できないらしい。
まさか外に吐き出される異物の気持ちが分かる日がやって来るなんてな……。
「げほ、えほ……。はぁはぁ……」
「ここまでありがとうな、ハチ。それと負担を掛けさせて悪かっ――」
「ちょ、まだこっち見ないで!――前に戻って時から全然練習してなかったから……。早く戻ってよ、私の身体!」
吐き出され地面に転がると、俺はさっと振り返りハチの姿を見た。
いつもの人型じゃない、巨大な竜。
他の竜たちとは大きさも、鱗の輝きも、何もかもが桁違い。
本人は恥ずかしそうにしているが、こんなに綺麗なモンスターを俺は知らない。
「べ、別に恥ずかしがることないんじゃないか?綺麗だぞ」
「だ、だからこっち見るな! この姿は生まれたままの姿……人間で言うところの全裸なのよ!恥ずかしいに決まってるじゃない! それともなに、まさか遥様は私のことをただの、野生のモンスターと同じ様に見ているじゃないでしょうね」
「そんなことはない。むしろハチのせいで新しい可能性に気付かされ――」
「な、ななな何真面目な顔で変なこと言ってるのよ!このバカ真面目! この……『水弾』!」
「お、おい! それ、まだ威力が……」
ここに来るまで何度も魔法の威力コントロールを練習してきたが、実のところ上手くいった試しはなかった。
だが、俺の頬に当たったそれは致命傷となるには程遠い威力。
これなら……少し派手な演出が出来そうだ。
「ふふ、ナイスコントロール――」
「だから、まだこっち向くなって言ってるでしょ!」
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