289話 最上位種
階層主は俺を睨むと自分の身体に刺さっていた剣に手を掛けた。
あの重さの剣を人と変わらない体格のまま、しかも片手で、満身創痍な状態で引き抜くなんてまず不可能。
それはオーガという種族であっても同じ、だと思ったがんだが。
「規格外、か」
「くっ、電網拘束」
軽々と刺さった剣を抜いていくオーガ。
その様子に思わず息を飲んでいると、俺よりもこいつの驚異を身をもって知っている山吹が動いた。
地面に手をおき、電気を高速で這わせて瞬く間に階層主の身体に格子を掛ける。
バチバチと電気の弾ける音からするに触れるだけでそれなりにダメージはあるのだろう。
これなら相手も迂闊に動くことはできないはず。
「神測」
『……種族オーガの最上位種【グレンデル】。41階層から50階層までが彼の縄張り。不死身ではなく、自然治癒能力が異常に高い。攻略方法を模索……高速の連撃が有効。多重乗斬が最適解。身体能力が軒並み高い。またオーガの特色を残し、雷耐性が高い。これに対応できるよう、超身体強化を……4重で自動発動。補完完了まで20秒』
4、重? そうまでしないと勝てないってのか?
というか……雷耐性?
「だとすると20秒は長すぎるじゃ……」
――バチ。
「ぺっ。これでレジスト完了と。こんなもの俺が授かった力に比べたら屁みたいなもんだ。それで返答は……無理矢理聞き出されたいってことか。ということは殺さないように手加減してやらないとだな。痛ぶって痛ぶって、この傷、焦げの借りを何倍にもして返してやりたいって思いもあったからちょうどいいか。糧にするのは……そのあとのお楽しみと行こうじゃないか」
階層主のオーガ。
いや、グレンデルは神測にあった雷耐性を生かしてか、電気の網を何食わぬ顔で食いちぎると、あっという間に剣を抜いた。
そして、口についた黒い焦げカスと電気の残滓を吐き捨てて一歩。
どうやら巨剣によるダメージとは別に、自身の攻撃による反動でもダメージを受けているようだ。
あの光線、かなり破壊力があったからこれくらいの反動はまぁ当たり前……いいや、もしかしたら俺が巨大な剣で邪魔したことが影響して溜めていたものが爆発した、とかかもしない。
だとすれば俺はこいつを相当情けない姿にしてしまった、のか?
こいつ変に冷静さがあるなと思っていたけど、本当は滅茶苦茶に……。
「怒ってる?」
「当たり前だ!! モンスターだと思って馬鹿にするか、この人間が!!」
「や、ば――」
――ごっ。
グレンデルは閃光の如く速さで俺の前まで移動を完了させると、山吹や女性が間に入る隙も与えないまま俺の頬を殴った。
咄嗟に手を出そうとしたが間に合わず、それどころか下手に反応してしまったものだからその拳は頬骨にクリーンヒット。
鈍い音が響き、強烈な痛みが全身を襲った。
単純な格闘スタイル。
光線を吐き出したりする派手な攻撃の方が威力は高いのだろうが、あえて拳にこだわるその戦い方が好みのようだ。
「はっ!! その程度か人間!! さあ! 答えろ! なぜあいつらがあのような姿になったのか! 進化に至ったのか! 持っているのだろう! あれを! お前が!!」
「くっ! な、なんのことだ――うっぐ…… 」
右フック、左手による視線誘導からの鳩尾突き。
あまりの痛みに前のめりになってしまうと、いつの間にか高々と上げられた右足が、その踵が勢いよく俺の後頭部に振り下ろされた。
大技を使われるよりも遥かに隙がなく、剣を生み出す暇も魔法を発動させる時間もない。
純粋な戦闘センスが、俺の得意な手を悉く潰す。
『――4重超身体強化が完了しまし――』
――すっ。
「さあ、吐け! 吐け! ははははははははははははは!!」
「う、そだろ……」
頼りの超身体強化が完了。
俺は痛みに耐えてそれでも反撃の狼煙とばかりにグレンデルの顔面目掛けて拳を突き出した。
だがそれは空を切り、それどころか2発3発、次々に攻撃をもらってしまう。
強い。こいつ、戦闘の経験値が俺以上だってのか?




