288話 ポチ?
「山吹……良かった生きてたか」
「へへ、この俺がそんな簡単に死ぬわけないだろ!って、大見得切りたいところだけどよ……。こうして生きてられんのもあいつのお陰。この身体の俺はまだまだダメダメで、成長中ってわけだ 」
成長中か。
山吹もハチも自分への期待が高いくて、それがやけに眩しく見える。
きっと本来何か大きな結果を残せるような強いやつっていうのはこういう前向きなタイプなんだろうな。
見てて清々しいけど、あのときの俺がどれだけ卑屈だったのか重い知らされてちょっとだけズキンとくるものがある。
どちらかといえば俺は……。
「……ん? そういえばあいつって誰だ?」
「それは、えっと……」
倒れながらも辺りをキョロキョロと見回す山吹。
ここにいるのは山吹と階層主と、餌を運ぶアンデッドフェイカーがいてもおかしくなくて……あとはポチがいるくらい、か。
「まさか……。いや、でも俺たちといた女性があれだけ強いならあり得るか――」
「お!良かった、まだ生きてるみたいだ。あいつにはもう助けられっぱなしよ」
そういいながら山吹は階層主よりも随分奥を指差した。
「あれは……」
砂埃が舞っているせいで視界が悪い。
だから俺はじっと目を凝らした。
すると、そこに見えたのは人。
胸の膨らみと長い髪、多分女性で背は俺や山吹よりも高い気がする。
倒れていて、出血もしている。
山吹の反応からして生きているとは思うが、動く様子がない。
この女性は一体……。
「神そ――」
「おーい!! ポチ!! お前のお陰で助かったぞぉお!!」
正体を探るために神測スキルを発動させようとすると、それをかき消す山吹の大きな声が耳をつんざいた。
いきなりそんな声出されると驚くだろ……って、ポチなのか?あの女性が?
「うん。私の本体」
恐る恐る俺と同じくこの階層に到着したばかりの女性を見ると、迷いなく頷いた。
ポチが女性で、女性がポチ。
冷える身体と熱くなる身体。表裏一体の2人。
……予想は当たった、けど当たってない。
まさか本体が人間の身体に、女性よりも大きくなるなんて流石に想像できなかったよ。
「……。へぇ、人間だけじゃなくてお前も生き残ってたのか。見た目は変わらずだが話せるし、感情もたっぷり……おいおい『ハミ出た』だけの存在の方が人間らしいなあ!リッチーなんていう化物に変わっちまったあれよりも失敗作だと思ってたが……これはどういうことだ?」
「お前……」
「あ? 人間、今はお前に聞いてないぞ」
ポチと山吹が生きていた、その事で少しだけ空気が和らいでいたのに、このオーガは身動きがとれないその状態にも関わらず女性……もう一人のポチを言葉で威圧し始めた。
咄嗟にスキルで抑圧してやろうと思ったが、こいつにもそれは効かないらしく、その跳ね返りとしてなのか、若干の頭痛が襲ってきた。
楽勝……かと思ったが、やはり一筋縄じゃいかない敵らしい。
そもそも俺の剣が刺さってるってのに普通に話してるのは異常。
まさかこいつも不死身か?
「……私も分からない」
「そうか。あいつも分からない、お前も分からない……ということは……。おい、今度は答えてもいいぞ。こいつらの変化、これはどういうことだ? 教えろ、それとも無理矢理聞き出してやった方がいいか?」




