表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

286/412

286話 ただでかいだけの剣

――ごごご……。



「はぁ、はぁ……んっ……じ、地響き?」

「思ったよりもまずいのかも……。焦りの感情が流れてく――」



 ――バキン。



 50階層への階段を下っていると、突然何かが折れときのような音が響いた。


 ダンジョンの仕掛けじゃない。

 これはただ単純に何かダメージによるもの……。


 それでその何かってのは1つしかない。



 ――バラバラ、パラッ。



「ダンジョンに元々備え付けられてるものだっていうのに……こうも簡単に壊れていいのかな」

「ここはもう50階層扱い。試したことはないけどそういう調整もできるのかもしれない」



『そんなわけないでしょ!! 2人とも早く戻って!! 強力なのがくるわよ!!』



 崩壊していく階段の先。

 目を凝らすことでようやく見えた光の点。


 それはハチの注意を合図にしたみたいにだんだんと広がり、バチバチと音を鳴らし始めた。



 この音、光の色……これってもしかして山吹?

 ……いや、違う。山吹の電気よりも太くて濃くて、殺気が込められている。


 インストールだとか電磁浮遊だとか、サポート効果の付与なんてない。



「ただ殺すためだけの光線だ」

「逃げるって、聞こえた?でも間に合わない、これじゃ」



 なぜか俺だけではなく女性にまでハチの声は届いていたらしく、その身体は慌てて後に向けられた。


 でも49階層はすでに遥か遠い。

 避けるにしても幅が狭くて、天井は低い。


 だとすればこれを受け止める?

 ……無理。ちょっと痛そう過ぎる。



「ということで、派手に登場と行くか。こっちの方が山吹もテンション上がるだろ。……そんな状態ならだけど。えっと……この素材で『剣生成』」



 崩壊していく階段。

 それに手を当てると、俺はスキルを発動させた。


 炎でも水でもよかったけど、多分同じ硬さのものの方が確実に斬れるだろ。



『――巨重剣:迷宮石質』



 階段の一部が抉れ、それはたちまち剣になる。


 今までのものよりも雑で、柄もろくにない。

 本当に斬れるのかと思うほどの刃はひたすらに長く太く、片手では持ち上がらないほどの重さだ。


 ゴブリンやコボルトといった素早いモンスターには全くといっていいほど合わない剣だが、この状況においてはこれ以上ないくらい好ましい。


 今はとにかく一発の破壊力が高ければ高いほどいい。



「こっちに寄ってくれ!」

「う、うん……」



 俺は女性が側まで近づいてくれたことを確認すると、掲げるようにこのばかでかい剣を頭の上まで持ち上げ、脆くなった階段目掛けて一気に振り下ろす。


 斬るというよりは最早叩くって感じで、まるで斧を振っているみたい。


 見る人によってはこんなの剣じゃないって怒りそうだ。



「でも、確かに斬れている」

「すご……」



 切っ先が階段に触れると、思っていたよりも柔らかい感触に襲われた。

 深くどこまでも入っていく気持ちよさは凄まじい。


 そうして脆くなった階段は2つに割れ、完全に崩壊。

 俺たちはその間を落下し始めた。


 それでもって敵の光線は……。



 ――ビリ、ぱり。



「危機一髪だったな」



 頭上を通過。

 焦げた臭いと、その辺りを消滅させる威力は驚きだが……作戦通りこれを回避できた。


 あんなの俺はまだしも、女性が食らってたら骨も残ってなかったんじゃないか?



「でも……これ大丈夫なの?」

「……まぁ、なんとかなる。……と思う」



 重すぎる剣は階段を斬ったあとも、スキルが効果切れるまで存在する。

 つまり、俺たちはこの剣の影響で今通常の落下速度よりも速く、とにかく速く落ちている。


 いつの間にか俺の服を掴んでいた女性は、無表情ながらも心配な様子で話し掛けてきているんだけど……実はそれよりも俺自身の方が焦っている、なんて言えない。


 なぜか剣から手が離せないし……。



「と、取りあえず魔法陣の準備しとくか」

『はぁ……』



 俺は約束通り魔法陣を展開させようと魔力を集中。

 すると、呆れたように深いため息が脳裏で響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ