286話 ただでかいだけの剣
――ごごご……。
「はぁ、はぁ……んっ……じ、地響き?」
「思ったよりもまずいのかも……。焦りの感情が流れてく――」
――バキン。
50階層への階段を下っていると、突然何かが折れときのような音が響いた。
ダンジョンの仕掛けじゃない。
これはただ単純に何かダメージによるもの……。
それでその何かってのは1つしかない。
――バラバラ、パラッ。
「ダンジョンに元々備え付けられてるものだっていうのに……こうも簡単に壊れていいのかな」
「ここはもう50階層扱い。試したことはないけどそういう調整もできるのかもしれない」
『そんなわけないでしょ!! 2人とも早く戻って!! 強力なのがくるわよ!!』
崩壊していく階段の先。
目を凝らすことでようやく見えた光の点。
それはハチの注意を合図にしたみたいにだんだんと広がり、バチバチと音を鳴らし始めた。
この音、光の色……これってもしかして山吹?
……いや、違う。山吹の電気よりも太くて濃くて、殺気が込められている。
インストールだとか電磁浮遊だとか、サポート効果の付与なんてない。
「ただ殺すためだけの光線だ」
「逃げるって、聞こえた?でも間に合わない、これじゃ」
なぜか俺だけではなく女性にまでハチの声は届いていたらしく、その身体は慌てて後に向けられた。
でも49階層はすでに遥か遠い。
避けるにしても幅が狭くて、天井は低い。
だとすればこれを受け止める?
……無理。ちょっと痛そう過ぎる。
「ということで、派手に登場と行くか。こっちの方が山吹もテンション上がるだろ。……そんな状態ならだけど。えっと……この素材で『剣生成』」
崩壊していく階段。
それに手を当てると、俺はスキルを発動させた。
炎でも水でもよかったけど、多分同じ硬さのものの方が確実に斬れるだろ。
『――巨重剣:迷宮石質』
階段の一部が抉れ、それはたちまち剣になる。
今までのものよりも雑で、柄もろくにない。
本当に斬れるのかと思うほどの刃はひたすらに長く太く、片手では持ち上がらないほどの重さだ。
ゴブリンやコボルトといった素早いモンスターには全くといっていいほど合わない剣だが、この状況においてはこれ以上ないくらい好ましい。
今はとにかく一発の破壊力が高ければ高いほどいい。
「こっちに寄ってくれ!」
「う、うん……」
俺は女性が側まで近づいてくれたことを確認すると、掲げるようにこのばかでかい剣を頭の上まで持ち上げ、脆くなった階段目掛けて一気に振り下ろす。
斬るというよりは最早叩くって感じで、まるで斧を振っているみたい。
見る人によってはこんなの剣じゃないって怒りそうだ。
「でも、確かに斬れている」
「すご……」
切っ先が階段に触れると、思っていたよりも柔らかい感触に襲われた。
深くどこまでも入っていく気持ちよさは凄まじい。
そうして脆くなった階段は2つに割れ、完全に崩壊。
俺たちはその間を落下し始めた。
それでもって敵の光線は……。
――ビリ、ぱり。
「危機一髪だったな」
頭上を通過。
焦げた臭いと、その辺りを消滅させる威力は驚きだが……作戦通りこれを回避できた。
あんなの俺はまだしも、女性が食らってたら骨も残ってなかったんじゃないか?
「でも……これ大丈夫なの?」
「……まぁ、なんとかなる。……と思う」
重すぎる剣は階段を斬ったあとも、スキルが効果切れるまで存在する。
つまり、俺たちはこの剣の影響で今通常の落下速度よりも速く、とにかく速く落ちている。
いつの間にか俺の服を掴んでいた女性は、無表情ながらも心配な様子で話し掛けてきているんだけど……実はそれよりも俺自身の方が焦っている、なんて言えない。
なぜか剣から手が離せないし……。
「と、取りあえず魔法陣の準備しとくか」
『はぁ……』
俺は約束通り魔法陣を展開させようと魔力を集中。
すると、呆れたように深いため息が脳裏で響いたのだった。




