284話 ぎゅ。
『経験値を取得しました。分配が行われました。分配対象のレベルが上がりました。契約中のモンスターが――』
「――あ、が……」
水弾が衝突し、リッチーの身体はバラバラになって辺りに飛び散った。
しかも骨は折れ、肉部分は大きく凹んでいる。
バラバラの要因はきっと振動の影響で接着部が甘くなっていたからだろう。
称呼に所々でズレが見られる。
ただそれでも、リッチーの頭部はカタカタと音を立てて、その口からは音が漏れている。
女性が『介入』をしていたから不死身の身体ではなくなったかと思ったが、それは完全ではなかったらしい。
『あ、こっちでもこの距離可能なのね。って、あれまだ生きてるわよね?』
その場に脚を止め、少しばかりリッチーを観察していると、ハチは俺の目を通して辺りの状況を把握、また話しかけてきた。
力になってくれたのはありがたい、けどこれって自分の仕事をほったらかしにしているってことじゃ……。
ま、まぁ今はそんなことはいいか。
「ああ。この階層の仕組みを変えない限りはやっぱり殺すことは不可能ってことみたいだ」
『なるほどねぇ。それじゃあ私みたいにその辺りの階層を縄張りにしてる奴を取っ捕まえないと、ね』
「縄張りにしてる奴……。あれ? ハチは知っているんじゃないのか?同じ竜だろ、そいつって」
『だと思ったんだけど……。なんかそれっぽい気配というか、そういうの感じないのよね。赤がそこに行ければ、正確に分かるのかもしれないけど私だと……多分交代されてるってことくらいしか分かんない』
「交、代……」
『つまり、他のモンスターが竜を殺して新しい主になったってこと』
竜を殺した? ここはハチや赤がいたところよりも深い……より強力な竜が配置されている階層じゃないのか?
それが普通のモンスターに負けるとか……一体どうなってるんだよ。
山吹とポチ……生きてるよな?
「は、あ……まだ、まだ、まだ……。俺はここを与えられ、た。あの方は俺を、生かすために……。だから、俺は……」
「死ぬの。ううん。そもそもあなたは死んでいた。あの人の友達だった……。でもあの人がああなって……あなたも思ったような姿、性格にならなくて……。関心は……多分ない」
「……う、そだ。そんなわけ、そんなわけ――」
「だって、友達のままだったら『あの方』なんて呼ばせない。……。それでも、私はあなたはまだ友達になれると思ってた。あの人が友達を捨てるなんてあり得ないと思ってた。けど……。介入して、わかった。あなたもただの……」
「違う……違う!! 種! あの種があれば俺は人間に! 強い存在に!! そうすれば俺はあの方の――」
「辛い、よね……。本当は誰よりも依存してるんだから。でも大丈夫、もう楽にしてあげる」
女性は濡れたリッチーの頭を拾い上げると、ぎゅっと両腕で抱き締めた。
ぎゅっと、ぎゅっと、だんだんとその力は強くなって、同時にリッチーの頭は氷に覆われていく。
そして……。
――パキン。
氷ごとそれにひびが入り、あっという間に砕けた。
パラパラと落ちるそれはもう動かない。
灰の時とは明らかに様子が違う。
「介入じゃなくて、奪取。この階層はもうあなたのものじゃなくなっていたの。……こんな簡単に奪取できる仕様にあの人はわざわざしていた」
女性はリッチーの欠片を見つめながら、そう呟いたのだった。




