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283話 血氷

『ハチ!? この距離で念話はなんてできない……できてもどれだけの負担があると――』

『そんなこと言って遥様も普通に返してるじゃない』

『あ……あれ?』

『ま、そのことも私の魔力をたっっっぷり、使ってくれたことは帰ってきてから話すとして……。あれのところまで女性を運んであげる。それでいいわよね?』

『あ、ああ……』



 これっぽっちも遅延なく、ハチは俺といつもの口調で念話してくれる。


 しかもどこからこの映像を見ているのか、まるでこの場にいるかのような状況判断だ。


 それにしても……やっぱり滅茶苦茶負担かかってたみたい。


 甘いものを沢山と……今月の課金額くらいは負担しないとまずいかもしれない。



『――水強化魔法陣を……連続展開』



 俺が返事を済ますと、ハチは今まで使ったこともない量の魔法陣をこの場に展開。


 すると、俺は頭を一瞬くらっと揺らした。

 というか勝手に揺れた。


 あいつここぞとばかりに俺の魔力をごっそり持ってったな。

 ……だからって、文句を言える立場じゃないんだけど。



『潜れ』



 ハチの一言とと共に俺の腕は勝手に動き、水弾はその展開されたいくつもの魔法陣をすり抜け始める。


 その度に水弾の速度は上がり、その顔はいかつく、太くなる。


 そしてあっという間に女性の真横まで移動。

 ここまでくればハチの考えが俺でも分かる。



「乗れ!! 足場を作ってもそれは止まらない!! 多分……」

「……ん!!」



 俺の声に気づいたようで、女性は威勢よく返事すると、水弾にすっと手を伸ばし、そしてそれを思い切り凍らせようとする。



『凄い魔力。これだけの力、竜の中でも……。ううん、流石にそれは誉めすぎたわね。だってこっちで、ある程度抑えられるんだもの』



 ハチのお陰もあって、水弾は胴体部分のみが凍った。


 女性はそれを見ると迷いなく水弾に飛び乗り、リッチーとの間にも展開された魔法陣をすり抜けていく。


 俺も走ってそれを追いかけるが、速すぎて追い付くどころかどんどん距離を離される。



「――あっ、たれえ!!」

「ば、馬鹿な!! 速すぎる――」



 あっという間に逃げるリッチーを捉えた水弾と女性はそれよりも高い位置をとり、下降。


 その勢いを利用して、女性は飛びっきりの蹴りをおみまいする。


 女性がそれでも水弾から落ちないのは、手ごと凍らせて、自分と水弾とをくっ付けてしまっているから。

 きっと痛みを伴っている。

 でもそのお陰でこの蹴りはリッチーの骨にひびを入れてしまうほど強力なものになった。



「ぐ、あっ!!」

「とった!! スキル解除。そして……」



 地面に叩きつけられたリッチーのあとを追って女性は水弾から飛び降りた。


 その尻はリッチーの身体を押し、馬乗り状態。

 しかもその両手は首をがっしりと掴んでいる。



「は、はなせっ!」

「もっと……介入、介入!! 階層主の、その力を私にも制御させなさい!」



 じたばたと暴れるリッチーの手が女性を引っ掻き、頬や腕には尖った骨部分が深めに肉をえぐったからか、ポタポタと血が落ちている。


 リッチーから権限を奪おうとしているのだろうが……これはあまりにも痛々しい。


 ただこのままだと女性も巻き込みかねないから、水弾を撃ち込めない。


 でも、だからといって女性があそこから退けばまた逃げられ――



「邪魔、だあああああああああ!!」

「うっ!!」



 リッチーが吠えながら、ついに女性を自分の身体から退かすことに成功。


 俺、というかハチは慌てたように水弾をぶつけようと俺の腕を強引に振り下ろさせる。


 でもこれで間に合うような敵じゃ……ん?動かない? リッチーのやつ、どうしたんだ?



「くそ! こんな、少量で!」

「血できた氷は、より強固で……剥がれにくい!」



 ゴロゴロと転がった場所で痛々しくもその口角をあげる女性。


 なるほど、あのダメージさえ計算だったか。



『はああああああああああああああ!!』



 ――ドン!!



 力一杯振り下ろされる俺の腕と水弾、念話とは思えない気合いの入ったハチの声。


 これらが合わさって、水弾はとうとう無防備なリッチーに衝突したのだった。

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