281話 削れる音
「何をしようとしているのかは分からないが、折角の遊びにちゃちゃを入れてこないでもらってもいいか?」
「くっ……。今なら当たると思ったのに」
女性がとった行動は足払い。
意識が俺の残している魔法陣へと向けられていると思っての攻撃だったのだろう。
しかしそれはあとわずかのところで跳ばれ、避けられてしまった。
いや、あとわずかで当たっていたのだ。
今なら。
女性が発したこの言葉の意味はきっとレベルアップを指し、それだけ早く、強く一撃を入れる自信がある、ということなのだろう。
「でも、俺はてっきりこの光を……前に分けたスキルが発動してること、強力になったことを誇るんだと思ってたんだけどな」
リッチーは、いや女性すらまだ気づいていない。
その光からこっちにまで冷気が流れていること、弾けた水が固体となって落ちていることに。
「接触すれば、効果はより高まる……はず。で、その通りなら俺の剣より早く確実に凍らせられる。なら、やっぱり俺は支援に回るか。……射出」
――ドン、ドンッ!!
俺は待機させてあった魔法陣から2発の水弾を発射。
まるで指揮者のように空いた手を動かして、それぞれの軌道を変えながらリッチーを狙う。
「うろちょろと。その水の弾丸、というよりも疑似の竜……俺との接触を恐れすぎではないか? そんなことをしている間にもそこまで――」
「はっ!」
俺と水弾に視線を向けるリッチー。
そんな自分を無視するような態度のリッチーに女性は苛立ちを覚えたのか、こちらの援護射撃を無視して右手を突き出していく。
俺はそれを察して水弾を上空高くから攻撃を仕掛ける。
水の弾からは大粒の水滴が垂れ、当然それにリッチーは気づいている。
だけど、それでいい。
そうであればこっちの仕掛けが決まる。
「だからそれは効かん。それに……安易な、特段変化のない攻撃にがっかり――」
リッチーは後に飛んで女性の拳を避けつつ、水弾の攻撃範囲からも抜け出そうとする。
女性の攻撃だけならまだしも、俺の攻撃も意識しているからか、大分力んで飛んで……防御の意識が薄くなる。
――パキン。
同時に2人の間を通る水滴が凍った。
それは女性の突き出した拳の勢いを受けて、リッチーの顔面まで凄まじい速さで伸びる。
――ガリ。
「なっ!?」
「これ……私がもらったスキル?」
真っ直ぐ後に飛んでくれたこと、リッチーの意識とは別の場所から攻撃を仕掛けられたこと、この2点のお陰でそれは避けられることなくリッチーの骨側の頬を削った。
そして、その凍った水滴は冷凍保存効果を伝達しようと、リッチーの顔を這おうとする。
「くっ!」
リッチーは慌てたようにそれを力一杯引き剥がす。
冷凍保存スキルにそれをも飲み込むような効果は流石にないものの、これが思いの外硬いようで少し手こずってくれる。
となれば……
「そんなことしてる暇はないだろ?」
俺の水の弾丸、水の竜の顔は、最早避けることが不可能な位置でリッチーの頭を噛み砕こうとガバッとその口を開けていたのだった。




