28話(他キャラ視点エピソード) 会議室
「――来たか。悪いな、急に呼び出しちまって。ま、討伐隊参加の際、こういう場合もあるって説明はしてはいたが」
「大丈夫ですよ。俺たちもちょうど全員で英気を養っていましたから。それで? 緊急で招集した理由はなんですか?」
探索者協会一階会議室。
招集された慎二と私たちは席に着かされ、早速話し合いは始まった。
慎二は私たち複数の探索者を参加に導いたことで、オロチ討伐隊の中でもそれなりの発言力があるから、少し偉そうに質問を投げかけている。
遅くから参加したことが原因なのか、慎二に対して他の参加探索者から熱い視線が贈られる。
これにはリーダーも困った様子。
「……。そうだな。時間は限られている。早速本題に入らせてもらう。今日度々聞こえる地響き……。魔力の探知が可能な探索者が言うには、あれは水属性の最上級魔法以上の強力な魔法によるものの可能性が高いらしくてな。しかも、その魔力の発信源は徐々にこのダンジョン街に向かってきているらしい。そんな強力な水属性魔法を行使出来て、ダンジョン内を這い上がってこれる存在、モンスターにみんな心当たりはあるよな?」
気持ちを切り替えて、話を始めたリーダー。
その内容に会議室の探索者たちは息を飲んだ。
オロチ。
未だ討伐に至ることが出来ていない、天災にも似たモンスター。
強力な水属性魔法、硬い鱗、息を吹き返すスキル。
これまでに何度か撃退しているが、その度にダンジョン街は大きな被害に遭い、討伐しない限りいつか死人が出ると言われている。
ここに集まった探索者の多くが家を奪われ、怪我を負い、オロチに対して強い恨みを持っているとか……。
「以前よりオロチの動向に気を付けてはいたが……。まさかこんな唐突に、ダンジョン街を目指してくるのは想定外。しかも地響きの発生源をその度に探知しているが、その移動速度は例年とは比べ物にならない程速い」
「具体的にはどれぐらいの速さなんですか?」
「明日……。いや、場合によっては今日の夜にはダンジョン街に到達してしまうだろう。そこでだ。みんなにはダンジョン内に入って、その進攻を遅らせて欲しい」
「遅らせる?」
「ああ。戦闘はもう少し先になると予想していたから、オロチの弱点である酒の準備がまだ足りなくてな。探索者協会が足りない分を急いで地上から取り寄せてくれてはいるが、それが間に合うかどうかが微妙。そこで、繰り返しにはなるが、みんなにはそれまでオロチの進攻を遅らせて欲しいのだ」
「つまり、至急ダンジョンに向かえと……」
「申し訳ないがその通りだ。ただ、急なことだ。無理強いはしない。まだ心の準備ができていない、戦闘の準備ができていないという者は地上でオロチ対策となる拘束具の整備などにあたってくれれば――」
「分かりました。それならその進攻を遅らせる役目、俺たちが請け負いましょう」
会議室がざわつき始め、不安の色を覗かせていると、自信満々に慎二が口火を切った。
「助かる。それでは、行ける者は私についてきてく――」
「いやいやいやいや。今のは俺たちだけで請け負うという意味ですよ。リーダー」
「何?」
「ここにいる探索者たちは弱すぎます。正直足手まといなんです。だから、このランク8の探索者さえも参加している俺のチームだけでダンジョンに……いや、状況を伝える役を1人プラスしたチームで向かいます」
「それは無謀だ。最悪、死ぬぞ」
「それだけの覚悟があるからこそ、討伐隊に参加しているんですよ。それに、俺は死にませんよ。絶対俺は、ね」
私たちに視線を送る慎二。
そう。きっと慎二は死なない。だって、私たちはこの命を懸けてでも慎二を守りたい。そういう思いが、スキルのせいで湧き上がってきているのだから。
「ま、まぁなんにせよ、すぐにダンジョンに向かってくれるのは有難いが……」
「そうでしょう。ここにいる探索者たちの皆さん、暖かく見送ってください。俺たちはこの街を守るため決死の覚悟でオロチの足止めをしてきますから」
安堵したような顔で拍手を送る探索者たち。
復讐心があるとはいえ、やっぱり人間。
自分が危険に晒される可能性がなくなるとなればこの反応なのね。
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