278話 リバーシブル
その言葉と共に飛び散っていた灰は一ヶ所に集まり始めた。
この灰からリッチーはまた生まれ出でようとしているらしい。
俺が死んで新しい身体となった時、あの時と比べてリッチーはその身体さえも粉々になったというのに意識はあるわ、元に戻ろうとするのは早いわで、自分との差を思い知らされる。
スキルが強力だというだけでなくこれが階層の主として、個として、その力を確立しているという点……なんだと思う。
なんて言えばいいのかわからないけど、つまりダンジョンの効果そのものを体現した存在がリッチーってことなんだろ、きっと。
「で、それは理解した、というか無理矢理理解させたけど……だからってこのまま黙ってそれを見ているわけはないんだよな。……『水城』」
まだ舞い、集まっている最中の灰の通り道を水の城、その城門で塞ぐ。
天井も完全に閉じているし、強度も十分。
意識はあるままなのだろうが、リッチーとして成立させる灰、パーツはこれで揃わない。
「くっ! しまった! ……とでも言うと思ったか?」
「なに?」
「リバーシブルアンデッド:表顕現」
水城より外にあった灰は全て集まるとついに身体を形成。
そしてそのシルエットの足りない部分、顔の半分と右手右足の辺りには小さい魔法陣が展開され、徐々に補強パーツを召喚。
違和感だらけの不格好なアンデッドの姿が浮かび上がる。
「あれ、今までのパターンだと身体と骨は分離されているんじゃないのか?何の効果かは分かってないけど……とにかく、他の奴らには意思が別々にあったはずじゃ」
「うん。それが普通。人間らしさの抽出はここにある『種』の効果、それは大きなデメリットで、感情の表現が難しくなったり、生前の記憶を失ったりする」
「それって――」
「俺が他のモンスターと同じな訳がないだろう。ここいにいたモンスターたちは種に適応できなかった、それだけの器になかった。だが俺は違う。あのお方に選ばれ、死してなお、この身をこの地で活かすよう命じられた。俺のためにこの階層を作り替え、与えてくれた。しかも、一緒に人間の身体を、その潜在的強さを、手に入れようと……従属させるだけではなく、俺と友好を築こうとしてくれたのだ。そんな俺が特別じゃないわけがない」
女性の正体について、その疑問が1つ晴れようとした時だった、新たな姿に生まれ変わったリッチーは食い気味に言葉を被せると、途端に俺たちの正面まで移動を完了させた。
恐らくこの階層にはこいつを不死にする、それに近い存在にするといった効果がある。
またそれをネクロマンサーとして他のモンスターにも付与できるのが階層主の権限。
多い次元の切り取りは元々のスキルで、骨と肉、2つのモンスターに分けているのが種の力。
これら3つの力を利用して今後ダンジョン街に進軍する主な指揮をとるのがこのリッチーの役割であり、こうして自らが、しかも肉弾戦を仕掛けてくるタイプではない……って思っていたんだけどな。
「でも……さっきの掴みはなかなか力強かったか」
「なかなか、か……。随分と余裕だな。そもそも俺が最も得意とするのは接近戦。腕力による補食活動だというのに 」




