277話 灰
「案外……いや、いくら何でも燃えやすすぎる。もしかして弱点属性だったのか?……ともあれ、なんとかなったっぽいな」
『リッチー、及びその配下たちの消失を確認。神測により、条件が緩和されていることもあり――』
「勝った、か」
ヒラヒラと舞う灰。
最早生き物の形を止めることができず、散らばった骨と一緒くたになってしまっているアンデッドフェイカー。
綺麗に咲き誇る白い花が静かに揺れる幻想的な雰囲気だけが残る49階層を見回しながら俺は水王城のスキルを解除。
今回のMVPであろう女性を労いに俺は小走りで駆け寄る。
「怪我は……ないみたいだけど」
その場に佇む女性には明るい様子など一切なかった。
聞こえてきたここに至るまでの事情を思い返してみると、どうやらリッチーとは面識があったようだし、自分の手で殺してしまったことは相当なショックだったのだろう。
「うん。大丈夫。だから他のモンスターみたいにあんまり気にしないで。……訳はあった。でも見殺しに、弱いモンスターたちを餌にしてたことは本当。選別をして、私たちは50階層攻略を目指した」
「自然と強い個体が出るのを待とうとは思わなかったのか?」
「コロシアムでは独自のコミュニティーが出来てて、そもそも次に進みたがるモンスターが減っていた。待てなかった。だから種を何匹かに渡して……粉状にする術も渡した。あの器具はあの人のもの。より強い作用を、快楽を得られるようにするもの。素手で擂り潰す比じゃない」
「……それを何で持っていたんだ?」
「盗んだ。あの時はこれ以上おかしくなって欲しくなかった。忘れて欲しくない、正気に戻って欲しい、そう思っていたと思う」
俯く女性。
その話す素振りからすると50階層にいる主とは恋人同士だったのだろうか?
それで……。
「そんなことしても生かされるような関係で……。42階層以降を任された、と」
「ううん。そんな、贔屓にしてもらえるような関係はもうない。ただ、その器具を落としたって、そう言った。そうしたらどんな手を使ってでも探せって……。不幸中の幸い。私たちは力と自由を手に入れた」
「嘘をついたってことか。でもそんなのがバレれば……」
「うん。殺される。でも私たちの力はここが限界。強くはなれないって判断した。だからバレるよりも早く、強いモンスターを生み出そうと私たちなりに頑張ってたってこと」
『――なるほどなるほど。そういうことだったのか。強い個体を生み出そうとしていたというところまでは噛み合っていたから、俺としても余計な詮索はしなかったが……。そうか、あの時は戻って欲しかった、か……。じゃあ今はどうなんだ?』
「いっそのこと殺して……楽にしてあげたい、かな。多分そう。この感情は……」
頭の中に声が流れた。
これはリッチーのもの、それでいて女性にもこの声は聞こえていて、驚く様子もなく返答している。
きっと女性はあの程度ではリッチーが死なないと、そう気づいていたのだろう。
いや、正確には復活すると。
だって、リッチーを燃やしたことで俺には新しいスキルが発現。
そのグループの消滅、リッチーの死が1度検知されている。
『女、お前には不可能だ。いくらアンデッドの軍を全壊させたとはいえ……俺はこの階層で進化して、本当の不死身となり得た存在なのだから』




