276話 還る
――ガギ……
「おっ……あああああああああああっ!!」
「ば、馬鹿な……そんな、どうしてお前にここまでの力が……」
リッチーの首に当たったのは女性が力一杯握りしめたナイフ。
白く光り輝いているところを見るに、どうやら俺の剣の分配が正常に行われたらしい。
これによって余計な小細工を無視したそのナイフは勢いを殺されることなく、リッチーの太い首の骨に食い込み、そのまま頭と胴体を引き離した。
これは俺が助力しただけでできる芸当じゃない。
元々の攻撃力に加え、武器の扱い、狙う箇所の即時判断力、そして絶対に仕留めるという気持ち……俺のようにレベル差の暴力がない状態であれば、これら全てが高い水準でしかもこの一瞬で発揮できなければ不可能。
きっとこれはこの女性の強さ、これまでに積み上げてきた努力の結晶。
目的のため鍛練を欠かさず行う姿が目に浮かぶようだ。
「だけど、これで死ぬような敵じゃない。……超炎狂鳥乱舞」
リッチーの頭はカタカタと震え、笑い声を漏らしていた。
アンデッドと同じく再生能力を持っているのは明白、さらに俺には危惧していることがもうひとつあって……。
何か厄介なことを起こされるよりも前に俺は魔法陣を展開した。
どうやら今の一撃でスキルの維持が難しくなったのか、発動に時間はかからない。
実際に触れて、斬ってみて得た感覚としてはスキルがなければアンデッドフェイカーよりも防御は弱い。
切断面を狙えば燃やしきれる。
発動の時間も隙も今度は十分だ。
「ふふ、躊躇はないか……。だが思いの外、『介入』はできないようだな。これは俺が、俺だけが個としてその力を確立できているからなのだろうな。……何も問題はない。さぁさっさと反撃の準備を――」
「……!」
「ちっ。ちょこまかと鬱陶しい」
魔法陣から無数の炎の鳥を排出。
ほぼ同時にリッチーの身体がよたよたと自分の頭を拾おうと歩き始めるが、その頭を女性は蹴り飛ばした。
邪魔されたことで、苛立ちを見せたリッチーは少しだけ足を早めるが……俺の攻撃はそれよりも早く到着しそうだ。
「……。全焼は流石に面倒だ。なにをしているお前たち!その程度さっさと……」
リッチーはコロリと頭だけを動かして俺を、俺の下にいるアンデッドフェイカーを見て命令を下そうとした。
その様子に俺も急いで足元を確認したが……。
「これは……ただの骨に戻っている?」
「あ、あぁ……。私の玩具が……。種をあれだけ使った玩具が……。お、女ぁぁあぁぁぁぁっ!!」
「『介入』できなかったのはあなただけ。これで、あの子たちは、その魂はダンジョンに還ることができる」
――ボウ。
リッチーが激昂しながら女性を睨む。
しかしそんなリッチーとは対照的に女性は両手を組み祈るように目を閉じた。
そして、動かなくなったアンデッドフェイカーたちを弔うかのように、リッチーの身体に火がついた。
そうして1羽目が到着すると、10、100、1000……数えきれない数の炎の鳥がその身体を燃やし……その場には灰だけが残ったのだった。




