273話 骨波
「……面白くなんてない。それは苦痛を生むだけ」
「あ? 上階層程度の、しかもそっち側のお前が図々しく意見しようというのか?名前すらない小娘ごときが?」
ローブのモンスターの笑いを遮って、女性が発言。
すると不機嫌というわけではなく、からかうような口調、様子でそいつは近寄ってきた。
そしてその顔にも明かりが灯ろうとした時、そのローブのフードを部分を自ずから取り外した。
骸骨、肉や血液は一切ない誰もが想像し得るスケルトンの姿。
違うところといえば、斜めに被せられた小さめの冠と2つの角。
片方は折れていて、なにかと戦った痕のように思える。
アンデッドをまとめるスケルトン……これだけでモンスターの種族は判明したようなもの。
「ま、それでも一応……神測――」
「いいのか?敵の目の前で主となるスキルを発動してしまっても。この階層は俺が支配した、俺だけが都合のいい場所なんだぞ?」
手袋に包まれたその手が俺の頭を掴んだ。
その動きは見えていたはずなのに、身体がそれに追い付かない。
まずい、何かされる。
「放、せっ!!」
「パージ:自骨右腕、パージ……」
慌てて剣を振るが、モンスターは全く避ける様子がないどころかスキルを発動。
右腕部分の骨を身体から分離させて、そのままその腕だけで俺を宙高く持ち上げた。
剣は当たった……当たったけどダメージなし。
外傷は見受けられず、その硬さがアンデッドフェイカーのそれを軽く越えることを教えてくれる。
レベルアップしたことで攻撃力は上がっているはずなんだけど……切断攻撃になった場合は武器に依存の割合が高いらしい。
この辺りを解消するために何か模索する必要はある。
というか、そんな事考えてる場合じゃない。
神測はまだなのかよ!
「上級魔法……」
「他者魔力を対象」
この状況を抜け出そうと、魔法を発動させようとしたが、それよりも相手のスキルが早かったらしく、魔法は俺の意思とは別に中断されてしまった。
そして、魔法陣を描いた時のネオン色の光の粒が俺たちの周りに飛び散り……それはこれでもかというくらい地面に落ちている骨に降り注いだ。
力が抜けていく、制御が難しくなっていく感覚がある。
例えるならバランスを取りたいのに箸に力が入らずポロポロとご飯が落ちていくような、そんな感覚。
「人間工学魔力は濃い味がする。肉体はやれんが、お前らにもおこぼれとしてこれを食え」
地面がわらわらと揺れ、そこにはアンデッドフェイカーが。
そうか。こいつらはここで作られ、このモンスターに命令されているのか。
それでもって獣戦士の仲間を食事として持ち帰って、きっとこのモンスターだけでなくこの下にいるもう1匹の元にも運んでいるのだろう。
フェイカーなんていう言い方をしているが、アンデッドに比べて待遇がいいのは、アンデッドのようなもの……つまり話す話せないは別として理性や機能はより人間に近い存在だからなのかもしれない。
「……醜い。みんな心の中じゃ泣いてるはず。こんないいように扱われて……元々はここに自然に湧いたモンスターなのに」
俺の下で群れるアンデッドフェイカーを見ながら女性は悲しそうな顔で言葉を漏らした。
そしてそれを不思議そうに見つめたかと思えば、ローブのモンスターはゆっくりと口を開くのだった。




