271話 クーデレ?
『ポチ、及び女性の情報が更新され、改めて神測が可能となりました――』
――ずおお……。
「捕まって」
「ん? ……。あっ、え、えっと……」
地響きと共に周りにあったお湯溜まりが、栓を抜いたかのように音を立て出した。
そしてついそれに視線を奪われていると、見た目の印象通り低めの声で俺は女性に声を掛けられた。
だけど突然捕まれと言われて女性の身体に触れられるほど、俺の心臓に毛は生えていない。
一回触ってはいるけど……こんな風に話せるとなれば余計に気を遣ってしまう。
ま、ハチだったらこんなことも思わずに触れる、というか強めに掴んでるかもしれないけど。
「早く。はぐれると面倒だから。それと……別に心配だから、じゃないから」
「……わかった」
決して大きいわけではないが、力強さを感じるその声色と、一向に逸れてくれない視線に俺は戦々恐々としながらも、そっと女性の細い腕に触れた。
ひんやりとしていて、やっぱり細くて……ん?
「なんか離れないんですけど……」
「ちゃんと握らないから、くっ付けた。これならあんた、迷子にならないでしょ?」
「そりゃそうかもしれないけど」
スキル『冷凍保存』を譲渡したわけではないけど、女性はその冷気を利用、さらには強化までしてしまったのだろうか、俺の手と自分の腕を氷で張り付けてしまったのだ。
お互い冷たさが痛みにならないのは、その耐性が影響しているからなんだと思う。
それにしても俺のことはあんた呼びなのね。
大分気が強い性格なのかな?
ま、出会ったばかりなんだからこれくらいは当然か――
「ごめん……。嫌だった?」
「……。あっ! ぜ、全然嫌じゃない! むしろそっちのほうが嫌なんじゃないかって思ったくらいで……」
「私も、嫌じゃない。うん。どっちかといえば、安心する」
……。なるほど、ツンデレタイプか。
ただオーソドックスなそれとはちょっと違う。
クーデレってやつ?
駄目だ、この辺はまったく詳しくない。見識が浅い。
苺っぽい雰囲気だけど、あそこまで幼さはないけど……慣れないとずっと主導権握られっぱなしになりかねな――
――がばっ。
「やっと1番下と繋がった。これで、一気に49階層に行ける」
女性の一挙一動にどぎまぎしていると、揺れが止まり、唐突に足元の地面が消えた。
いや、鳴った音からして開いたというほうが正しいか。
「よく見れば外開きになってるし……」
「ポチのイメージだとこれが限界だったみたいね」
落下しながらさっきまでの場所を見上げると、消えた地面の端の部分は扉のような作りで開かれていた。
女性の言葉からしてどうやらこれはポチが生み出した、ポチから生み出されたものらしい。
「ダンジョンの階層……。ハチとか赤みたいなことができるということは……」
「ハチ?赤?それは知らないけど、多分思った通り。あ、だ、だからって考え方が似てて相性バッチリ!とかそんなんじゃないから。勘違いしないでね」
「えっと……はい」
「それで改めてだけど私は――」
――すとん。
階層的間を真っ暗な空間を伝って移動していたと思えば、女性の話の途中で急に地面に足が着いた感覚が。
「まさか……。まさかまさかまさかそんな荒業でここまで来るとは想像外だったぞ。それに……まさかこの階層まで自分の、しかも勝手にテリトリーにしようなん思ってはないだろうな、女」
そして驚いていると今度こそ頭の中だけではなく耳から直接その声を聞くことができたのだった。




