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261話 沈む

『基礎能力の向上の為のみの階層を突破。ここからは43階層、ではなく47階層となる。複数階層の統合はよりおまえたちにとって効率の良い仕組みを設けるための処置である。恵まれた環境に感謝を持ち、残りの階層においても自己の強化に努めよ』



 また偉そうな文章。

 これを書いた奴とは仲良くなることは……多分できない。


 にしてもこの看板が下に沈まないのは、見た目以上に素材が特殊だったりするとかなのか?


 種のことといい、新しい資源という観点でもこの辺りは興味深い。

 戦いが終わって無事だったらダンジョン街をよりよく、発展させるためにもっとたくさんの探索者を連れてきたいって、探索者協会は思うだろうな。



「やば! こっちも沈んできたぞ!!」



 まだ看板に書かれていることを読みきっていないのに、水の城ごと俺たちは沈み始めた。


 階層の移動だけだからダメージは心配ない。


 ただ呼吸だけはどうしてもな……。

 あんまり深くないことを祈るばかりだよ。



 ――すぅ。



 思い切り息を吸い込んで止める。


 そして目元まで砂に飲まれてしまうそのときまで看板から俺は視線を逸らさない。



『47階層試練内容【熱波】:余分な肉を削ぎ落とすことで軽量化、さらには人肌の獲得を目指し、ひたすらに汗を流すことが目的である。また獣種の場合は汗をかくことを覚えるための階層でもある。長く険しい道のりを経て胆力、忍耐力を身に付けたのだ、より人らしくなるために足掻いてみせろ。我が元、49階層にたどり着いたのならばその時はその強さを称え、褒美に……』



 思ったよりも看板に書かれていた文章が長くてしっかりと読めなかった。


 ただこの先があまり好ましくない環境であることと、『褒美』というあまりにも甘美な響きは瞬時に理解。


 ひたすらに強くなることを求めるモンスターたちは、階層主の憧れとは別に、この褒美の存在をなんとなく期待していたのではないだろうか?


 そしてその褒美っていうのは……。


 『あれ』が関わっている可能性が高い。

 俺としては他のものの方がいいのだけど、モンスターたちからすればきっと……。



 あれ? そういえば階層ごとの主、ボスモンスターなんかが確認されているような言い草を獣戦士のあいつが言ってなかった?


 ……最近階層が一部と統合されたとして、そのことを知らないのは仕方ないし、理解できるけど……ボスが消えてなくなったというのは考えにくいし、それだけで消えてしまったというのは理解できない。



 『ひたすらに汗』。

 読み取れた字面の1つだけど、嫌な予感がすごいな。


 移動中に食事をとったことが仇にならなきゃいいけど……。




 ――すさぁ……。




「うっ! ごほっ! はぁはぁはぁ……し、しんど!」

「……。ふぅ……」

「わう!」



 完全に砂に飲まれてから約1分。

 俺たちはようやく階層の移動を終えた。


 そして各々が呼吸を整え、次第に新しい景色に目を奪われる。



 赤い大地に吹き出す湯気。

 大小様々な岩が道を阻んで、アスレチックコースのような雰囲気もある。


 赤のいた階層近くに似ているが、溶岩は流れていない。

 あるのは熱々の……おそらくは温泉。


 硫黄の匂いが微かに漂い、なによりも……。



「あっぢい! 並木遥! こりゃ俺のスキルじゃどうにもならないぜ!」

「俺も冷やす能力に特化してるわけじゃないから」



 暑さに負けそうな山吹は俺に期待の視線を向け、女性とポチはなぜか少しだけ嬉しそうな顔で、まるで懐かしむように周りを見回したのだった。

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