256話 仲間意識
「……」
「意外そうな顔すんのは分かるぜ、俺もこいつがこーんなにすぐ自分の考えを改めるなんて思わなかったし……見た目の割にちょろすぎるよな?」
獣戦士の顔から視線を逸らさないもののやはり黙りな女性と、なんだか気まずそうな獣戦士。
そんな2人に焦れったくなったのか、山吹は獣戦士をからかいながらにそれに割って入る。
「ちょろい……。まぁそんな言われ方してもしょうがないよな。だけど……あの姿はあんまりに意外だったからさ」
「あの姿?」
獣戦士は照れがあるのか、頬を人差し指で掻きながら質問した俺に視線を移す。
そういえば戦ってた時は中の様子なんて一切気にしていなかったな。
「お前を見ていたこいつは、いつもみたいに口角を上げてはいなかった。手を組んで祈っていた。そんでこの男が声をかけた時だけ口角を上げて……。なんだか無理して笑っているように見えた。……心配させないように」
「……そうか」
無理矢理笑っている。
俺は獣戦士の言葉に共感を覚えた。
だってあの瞳の潤みと口角はどう見ても不自然だったから。
「それでその姿ってのは……いいや、あいつは死んだ。俺も見ていたし、あり得ない」
獣戦士は首を横にふって見せるともう一度俺と顔を向き合わせる。
わざわざここまで山吹に運んでもらったわけだからこれで終わりってわけじゃないのだろう。
「もう持っているかもしれないが、これをお前には渡しておく」
「……これは?」
獣戦士が手渡してきたのは鉄製の細長いなにか。
パッと見た感じ……ニンニクをすり潰す器具に似ているかな?
「種をそのまま摂取しても効果はあるが、加工してやった方が反動が少なくて、生存、強化される可能性が高い。ただその分中毒性が増して、既に種に毒された奴が依ってきやすくなる」
「……お前は、なんでそんなものを持ってるんだ?」
「種を使って品種改良……ってのはできなかった。だからその代わりに、種を最大限活かすための加工が研究されて、これができたらしい」
「らしい?」
「作った奴は大分前に死んじまった。原因は多分……」
「これを作ったから、か?」
俺はそう言いながら獣戦士から器具を受け取った。
質問に対して暗い表情を見せるということは図星なんだろう。
「俺たちはダンジョンの……主の道具でしかない。思惑と反対のことをすればそれなりの制裁がある、んだと思う」
「なるほどな。自分たちでも不明確、と」
「ああ。恥ずかしながらな」
恥ずかしいといいながらもその瞳には恐怖が見える。
主には逆らえない。
それは本能として刻まれ、抗えないものなのだろう。
催眠や暗示、呪いみたいに。
「……。それでなんでこれを?」
「この女のことを意外に思ったとはいえ、それだけで何もかも信用できるかといえば別。だからいざってとき種を加工して、それで服従させろ。自分にかからないように気を付けてな」
「薬による服従……。最悪な結果だな、それは」
「……。だから俺たちも極力はしない。今回だって用意したのは念のため、だった。こんな女でもそれをするのは流石に気が引ける」
「お前たち、もう一部の人間より人間らしいよ。ありがとう。大事にさせてもらう」
俺は礼を告げると器具をしまう。
まだ舞っている灰でそれが汚れないように。
「……。俺たちは戻る。しばらくはないが起こるか分からないから侵入は控えろって、伝えに」
「ああ。そもそもその身体じゃこれ以上は無理だろうし……しっかり治療しろよ」
「ふ……。言われるまでもない。俺はお前の先輩にあたるんだぞ。……検討を祈る。同志たちよ」
獣戦士は山吹の手をのけると、よろよろとしながらも1人で歩き始めた。
俺たちによくしてくれる理由も聞こうと思ったが、その答えは最後の一言につまっていたな。
「さて、俺たちも行くか」
「あ、それなんだけどよ。俺に良い案があんだよ」
山吹は笑顔を見せるとまた電気を溜め始めた。
「――ご、め……」
そして同時に俺は女性の口から言葉が漏れでた気がした。
だけど電気の音でそれが確かなものか分からなくて、なんとなく聞こえなかったことにした。




