252話 マヌケをロックオン
「あれがモンスターたちを襲った正体……。強いな、かなり」
壁に食い込んだ歯がその身体を捻る度にやや前進しているように見える。
このスキルがハチの力の一端であること、そしてアナウンスによって休憩場所を作ることができると明言されていること、この2つから水城の耐久性が高いことは間違いがない。
にも関わらず……これか。
このモンスターたちじゃ相手にならないはずだ。
「でもボスじゃない。こいつらはあくまでこっちの様子を見に……いいや、肉を拾い集めに行かせたおつかい兵士ってこだろうな。あの様子を見るとさ」
ここで頑張って俺たちを襲おうとするアンデッドフェイカー、それとは別にモンスターたちの死骸周りを遊泳する個体が2匹。
嬉しそうに物色をすると、その2匹は死体を器用に口の中へ。
それを食べるわけではないのか、決して噛み砕いたりはしない。
おつかい……その表現のままなんだろうな。
こいつらがいる理由は。
「それで急に現れたのは餌がなくなったから……ともあれ、あれをこのままにしておくのはまずい。山吹は一応ここで待機。ここは俺が行く――」
水城の扉に手を掛けようとした。
だがその瞬間後ろで服が引っ張られる感覚が……。
「……」
引き留めたのは無言の女性。
やっぱり、この人は仲間が殺されることを嫌がっている。
この階層を突破するために利用したいから、ってわけでもなさそうな顔だ。
なにか訳がある……でも話せないとなると真意は分からない。
「種……これについて解ればあるいは……」
「並木遥! こっちの準備整ったぜ! このしんどい重力もマシになるはずだ!」
「助かる! ……大丈夫。俺は、俺たちはそんな簡単に死なないさ」
ポケットから取り出した種を再びしまうと、俺は女性になるべく優しく語りかけた。
するとその手はそっと離れ、代わりにポチを抱き上げた。
女性とは反対にポチは尻尾をブンブン振り回して、なかなかに好戦的。
重力の影響なんてないみたいに見える。
見た目に反して力自慢で丈夫なんだろうか?
「――範囲を拡大拡大拡大、電気を自分の血のように滾らせろ。いくぜ……『電磁浮遊』」
山吹がスキルを発動させると地面に電気が流れ、光が走った。
そしてその直線上にいた俺たちも光を帯びて……数センチだけ浮いた。
慣れない感覚で普段よりも体勢を保つのが難しく感じる。
でも……。
「軽い」
「わん!!」
重い荷物を投げ捨てたような解放感。
この心地よさにポチ満足気みたい。
「あいつらを思いっきり驚かせてやってくれや!」
「……あいつらだけじゃない。ここにいる全員を驚かせてやる」
そういって俺は扉を開けた。
まずはあの壁に噛みついたままのマヌケを処理しますか。
「確かスイッチを押せば動きが止まるとかって言ってたけど……別に跡形もなく消してしまっても倒せはするんだろ?」
『神測。……そこまでの再生機能、スキルは確認できませんでした。この結果から対象を消し炭にできる方法を模索伝達……補完しました』
神測により頭の中に送られてきた何通りもの戦闘方法。
その中で俺は1番派手そうなものに目を付けて、久々にでかめの魔法陣を展開させたのだった。




