251話 水城
「――おい! ボサッとしてんな!! 右っ側から来るぞ!!」
山吹の大声で俺たちは視線を上げた。
正面にはなにも見えない。
透明なモンスター? 分からないけど、生き残っている獣戦士たちをここで見過ごすのは後味が悪すぎる。
「水城」
だから俺は神測によって取得したスキルを早速起動。
一気に体力を持っていくスキルのようで、気だるさが全身を襲う。
魔法を使う感覚に近いが魔法陣の展開はない。
おそらくその根元が俺に内在する魔力だけではなく、契約モンスターであるハチとそのスキルでもあるから、形式上魔法とは似て非なるもので、スキルという扱いになる、んだと思う。
この辺りの線引きについては結構疑問に思うことがあったりするけど、そこのところを聞ける人って心当たりがない。
みんなステータスやアナウンスによって振り分けられているものを、そのまま受け入れているだけの節があるし、それで問題になることもないから。
考えればいい加減な仕組み、なのかもしれないな。
このダンジョン、というかそれを産み出した神様は案外大雑把な性格だったりして……。
と、考えてる間に完了か。
「――おお!」
「わん!」
なにもないところからすうっとフェードインするかのように現れた水の城にどこか少年のようなキラキラとした視線と、驚きの声をあげる山吹とポチ。
そんな水の城は俺や生き残ったモンスターたちを取り囲むほどの大きさ。
壁として存在しているわけじゃなくて城として生み出されたから当然屋根もあるし、扉や窓もある。
息苦しさはなくてむしろ涼しくて居心地はいい。
重力の対象になっていないからなのか、辛かったのは展開時だけで、維持も俺の方は問題なさそうだ。
ただハチへの負担は分からないけど……。
帰ったら怒られないかちょっと不安だな。
「こりゃいいや! じゃあ俺もスキルを広範囲に展開出きるようにお邪魔させてもらうな! ……ってなわけで、並木遥! この何もない一方通行の階層が42階層。それでもって……」
――バシャン!
「ふぅ……。あれがこの階層を牛耳るボス……の手駒。もっと奥で構えてるもんだと思ったけど、どうやら想像よりも攻勢的らしい」
急いで俺たちのもとへ駆け寄ってきた山吹は扉に手を掛けると転がりながら水の城の中へ。
そして振り返りながら指した人差し指の先には、波のように揺れる砂浜と『骨』でできたヒレが迫ってきていた。
「あれはモンスター、なのか? ……神測」
『対象の種別……アンデッドフェイカー:サメ型。通常のアンデッドとは異なり、モンスターの骨や眼球などを用いて作られた人形にスキルによって意思を持たせた存在です。モンスターとしての登録はなく、あくまで道具としての判定となります。通常これは殺すことができません。ただし停止は可能であり、そのスイッチとなる箇所が存在します。それを特定するため色によって表面化……隠れた情報の補完をしました――』
「――があああああ!!」
そうしてアナウンスが流れると同時にアンデッドフェイカーと呼ばれる骨のサメはようやく砂から顔を出し、俺の城へと突進。
鋭く尖った牙を城壁に食い込ませながらそのグロテスクな顔で俺たちをなめるように見回した。




