248話 不幸
「コロシアムの試練を越えたとはいえ、まだまだレベルも身体も低かったから、挑んだってよりか一緒に挑ませてもらったのが正しいんだけどな。とにかく、俺は42階層に踏み入れられることに興奮していた」
思い出にふけるように話す獣戦士、その様子からするとあの日というのは何年も前な気がする。
「入るだけ、挑むだけならいつでも大丈夫なんじゃないのか?それともなにかここの奴らだけのルールがあるとか?」
親しげに質問を投げ掛ける山吹。
42階層の仕組みは……事前に知っていた感じじゃなさそうか。
「いいや、そんなものはない。ただ、その重力ってのが異常なんだよ。1人2人なら確実にぺしゃんこ。それでいて、襲ってくる敵だっている。だから無駄に死なないために、俺たちはある程度の実力を備えた奴らだけで挑むように自然となったのさ。ま、他にも理由があるとすりゃあ足手まといを増やして突破できる余裕があんましないってのもあるかもな」
押し潰されるくらいの重力……話からするとそのパーティー内でそれを分散できるらしいから42階層全体がそういった特殊な場なんじゃなくて、挑戦したパーティーを対象としたスキル効果が付与されるってシステムなのかもしれない。
重力っていうと慎二のよく使ってた魔法を思い出すけど、50階層にいる主、竜は植物だけじゃなくて闇系の魔法まで使うのか?
今までは属性が決まっていたけど……今度のは真面目に加えて器用な竜である可能性が高い。
インテリ系、エリート……俺とは反対のタイプだな。
「そんな中、たまたま仲の良かった先輩に同行を許してもらって……大体半分くらい進んだ時だったかな。この女と出会ったのは」
獣戦士は女性を見ながら少しだけ黙ると軽く歯軋り。
相当な恨みがあるにも関わらず、そこで争わない理由は……それも話を聞いてれば分かるか。
「まだモンスターの姿だったこいつは死にかけだった。その時から色は白くなり始めていて……今思えばすでに1つ種を食った状態だったのかもしれない」
「……生き残るために、自身を強化するために仕方なくって感じだった、のかな?種を持っていたことが幸をそうしたと」
俺がそういうと獣戦士はため息を漏らす。
俺たちは不幸だったって言いたげだ。
「それで可哀想に思った俺たちはこいつを連れ帰ることにした。それで俺と先輩と他の仲間3人が帰る組、残りが進む組で分かれることになって、帰路を急いだ。でも時間が経つに連れこいつはもう助からない。そういう状態に陥って……そんな時最悪なことに俺たちはゴーレムに襲われた」
「ゴーレム……。なるほどな。モンスターだけどモンスターとして組み込まれない、どっちかってえと道具みたいな奴らを重力のルールを無視できる障害として置いてあるってわけだ」
「ああ。奴らは相対的に速くて、強い。数を減らした俺たちは劣勢で、正直勝ち目はないように思った。そのとき、こいつは状況打破のためなのか1つ種を食って……半端な強さと引き換えに言葉を殺された。おかげでゴーレムは倒したし、感謝もして、可哀想だと思った。でもその直後、なぜか俺は身体が軽くなって……仲間の1人だけが苦しそうに息をし始めたんだ」




