246話 獣の語り
「おいおいおいおい! その悪口は女の子に失礼すぎやしないか?こんなに美人さんが、そんな馬鹿な」
「……信じないか。まあそうだな、俺だって最初は信じなかった。だがあの日から俺はこいつの顔が、その人間の顔が偽の顔なんだって気づいた。表情がないのは人間じゃないから、だけじゃない。きっと崩れちまうのさ、笑ったそばからずるっとよ」
獣戦士は自分の顔に手を当てると、下に引っ張って皮膚を弛ませた。
死神のイメージはモンスターの間でも面長で細いらしい。
そしてなぜかそれを見た山吹も真似をする。
不意にやられたこともあってか獣戦士は吹き出してしまうが、女性は黙り。
いや、俺だって笑わないけどな。
「そんなことよりあの日っていうのを聞いてもいいか?俺たちなら何か分かることがあるかもしれない」
「かまわないがよ……。分かったってどうするんだ? お前たち新顔だろ? なにもそこまで足を突っ込む必要はないじゃないか」
「それは……確かに」
流石にこれだけのモンスターを引き連れるだけあって頭がいいのだろう、この立派なたてがみの、ライオンみたいな獣戦士は冷静な思考で正論を放ってきた。
俺の今回の目的はあくまでスキルの条件達成と山吹が契約しても大丈夫そうなモンスターの確保。
わざわざ面倒ごとに首を突っ込むよりも先に、進むことが大事――
「でもよもしあの『種』が、それを配布してるようなのがこのシステム?を構築しているんなら……まぁ俺たちも関わることにメリットはあるかもな。面倒なのは変わらねえけど」
山吹の口から種という言葉が出た。
さっきまではあんまりそれに触れることもよくなさそうな素振りだったのに……いや、今もそれは変わらなさそうか。
でもなんと言うか観念したって感じがする。
「『種』のことを知っているのか……。……。そういうことならちょっとだけ話してやる。……この女は『種』の効果に順応できなかっただけじゃなく、多分俺たち以上に魅了されちまったのよ」
「それはつまり……食ったってことか? この女性も」
俺が質問すると獣戦士はコクンと頷く。
種にデメリットがあることはさっき目の当たりにした。
だけど死だけじゃなくこんな風に感情がなくなる場合もあるなんて……身体の強さだけじゃなくて精神力の強さも種の効果を受け入れるには必要なのかもしれない。
というか、この種って一体なんなんだよ。
まさかそこら辺にあるものなのか?
「限界を超えることによる身体への負担、それをそいつは耐えたが……相当な苦痛を伴ったのか、こいつは一切話さなくなった。まぁ元々境遇的にあんまり話すタイプでもなかったけどな。ただ、嫌われているわけでもなかったから最初は心配して、声を掛けたり、率先して仲間に加えようともした。でも……」
「あの日、何かが起きたって? この人殺しでもしたのかよ」
山吹が首を傾げると獣戦士は顔をしかめて再び口を開く。
「実際に手をかけたりはしてないが……。こいつだけ、帰ってきたんだよ。42階層から。仲間の命を助けに向かった奴らを踏み台にしてな。……どうやらこいつは種の影響でダンジョンのルールを一部変えられる、50階層にいる統べる者のそれに干渉できるようになったらしい。それで仲間だけに『重力』の枷を任せ、弄んだんだ」




