245話 死神?
「くぅん……」
「もしかして、お前の本当のご主人様だってのか?でもだからってなんでそれを俺たちに……」
ポチは女性の足下まで歩くと、尻尾を振りながら頬を擦り付けた。
それでも女性に大した変化はなく、眉1つ動かさない。
感情が見えにくいといった点で言えば苺に近いような気がしなくもないけど……この人からは生気すら感じない。
外傷はないし……生きている、んだよな?
「……神測」
状態を確認するために俺は神測を発動。
助けたいって思いは当然として、気になる点がやたらと多くて……どこか胸騒ぎがするから。
『女性の状態を神測。……。……。……。効果の90パーセントをレジストされました。女性は動けるようです。生存しています。会話は難しいです。種族は人間の可能性が高いです』
「またレジスト……?」
「なんだよなんだよ、肝心なところでそりゃないぜ。そんじゃよ、せめてこのわんころがなに言ってるかだけでも――」
「――がおおおおおおおおおおおおおおおうっ!!!」
突然けたたましい鳴き声が真後ろで鳴り響いた。
咄嗟に俺たちは振り返ると、そこにはさっき見た獣戦士モンスターが10匹ほど。
俺たちが走っているとき、後ろに迫っていることにまったく気づかなかった。
それはそのときまではそこそこに間の距離があったからで、その距離が縮まったのはほんの数分、いや数十秒のの内。
つまり、こいつらは俺たちなんかよりも、よっぽど速いスピードで走ってきたってこと。
「――セイレツッ! ……。……。……。キョウコソ、ソノサキヘ……シンノキョウシャ、シンノニンゲンヲメザス!!シンニュウ、カイシ――」
着いて早々モンスターたちは隊列を組み、立て看板の先に見える階段、さらにはその先へと進もうとした。
しかし先頭で指揮をとっていたたてがみが印象的な獣戦士は俺たちに気づいたのか、ちらりとこちらを見ると突然足を止めた。
「……」
「な、なんだよ!食ったって旨くねえぞ!」
「ニンゲンノ、マガイモノハクワン。……ダカラ、オマエラモ、モンスター、トイエル。ヨッテ、ナカマニハ、チュウコクシテヤル」
カ、カタコトでいっぱい話されるの案外聞き取りにくいな……。なんとかしたい。
ただ偉そうに腕組みしてるけど、仲間って言葉は聞こえた。
思った以上に友好的。
でもきっと契約は嫌がるのよね、このモンスターたち。
『自動神測。日本語会話技術力、聞き取りA、発音C、語彙力B、強弱C……総合C+。会話は可能ですが、スムーズにはいかないレベルです。対象言語が日本語であることからこれを聞き取れるようにすることが可能です。聞き取り能力を強制強化……補完終了』
「こいつはな……」
おお! 獣戦士の声が渋く聞こえるようになった!
少し話しただけだけど、日本人なのかなって疑うくらい流暢――
「ただの脱け殻じゃない。俺たちを踏み台に先へ進もうとする……死神さ」
「死、神……」
俺はその言葉を繰り返すと、到底そんなものが似合わうと思えない白髪で美しいその女性と、今にも吠え出しそうな顔つきで尻尾を高くあげるポチを見たのだった。




