243話 いいもの?
「……マズハ、オマエ」
「ん!? あ、おい! 俺のヘアスタイルが崩れるだろうが!!」
気にしていようがいまいが、暴れようがなんだろうが、問答無用で山吹の頭を掴む豹戦士。
あれだけ暴れてもその手が離れないのは、それだけの強さがあるからなんだろうけど……名無しっていうところがどうも引っ掛かる。
神測しようか? いや、山吹の時みたいに気づかれると面倒なことになりかねない。
攻撃をしようとしているわけじゃないんだから、一旦は相手の言う通りにしておこう。
「……。……。……」
「な、なんだよ!! まさか不合格だって言うんじゃないだろうな! あんなワーウルフ1匹と同じだなんて言いやがったらとびっきりの電撃を――」
「ゴウカク、デス。モンヲアケマス、シバシ、オマチヲ」
何か悩んだ顔を浮かべた豹戦士だったが、山吹の顔を見つめた後、敬語で結果を教えてくれた。
人間だからってそこに差別はないみたいだ。
というか差別とはほど遠い反応……そんなに山吹のステータスが凄く見えたのかな。
「ツギ、オマエ」
そうこうしているうちに豹戦士は俺のもとに駆け寄って頭に手をおいた。
あんまり山吹を待たせないようにか、焦っての移動だったのだが、それはあまりにも速く流麗だった。
その強さは山吹と同じくらい……いいや、スキルが絡まなければそれ以上にも見える。
「……。……。……」
再び黙る豹戦士。
そういえば俺は戦っていないんだけど、こうやって判断されてもいいのかな?
もしかして、そのことで悩まれてるとか?
「ア、アリエナイ。ソノ、ツヨサ。ドウヤッテ……イヤ、ナニモキクマイ。ココヲサルモノニハ」
豹戦士は寂しそうにそう言うと、観客のモンスター1匹を手招きして脇に挟み込んだ。
観客となったモンスターはいつまでも回復に努められるわけじゃない。
当然豹戦士だって食事をするのだから、その餌となることもある。
俺たちが見た41階層で権力のあるモンスターはこの1匹だけだったが、マップや観客の数を見るに似たようなモンスターはまだいて……もしかするとその中でも争いがあるのかもしれない。
とにかく強いモンスターを作り上げるために。
ただそれは一体なんのために……。
「あっ! そうださっきの種! あの質問がまだだった!」
「おい! 並木遥! あんまり勝手すると戦いたいと思われるぞ !こいつらを殺したって組織は、このシステムを作った元締めはぶっ壊せねえ!」
豹戦士の背中を追う俺を、山吹は慌てたような声で引き留める。
なんかやけに詳しいのも、慌ててる意味も以前スキルで何か知れたことがあるのかな?
「ナマエ……。イイナ。ヤハリ、ニンゲンハ、トクベツ……」
「ま、待ってくれ! さっきの質問の続きなんだが――」
―― ピッ。
俺が声を掛けると豹戦士はさっと振り替えって何かを指で飛ばした。
攻撃……じゃない。
って、これ……。
「ソノナカデモ、オマエ、トクベツ。コレヲ、アツカエルヨウニナル。イヤ、カエラレルカモシレナイ」
「種……。もらっていいのか?」
「ワタシテハイケナイ、トハイワレテナイ。ソレハ、ゲンカイヲコエラレル。シッテルノ、ソレダケ」
俺は豹戦士の飛ばした種を拾い上げるとポケットにしまった。
限界を越える……もしかするとこれで俺たちの戦力が増強できるかもしない。
「思いがけずいいものが手に入った――」
「それはどうだかな」
喜ぶ俺とは反対に山吹は訝しげな顔を浮かべながら、そのすぐあとに開かれた格子扉をくぐり抜けたのだった。




