242話 種
「……」
黒い体毛のモンスターは俺と山吹をチラッと見る。
しかし俺たちがまだなんの選択も行っていないからなのか、近寄って来ようとはしない。
人間を見つけ次第襲ってくるのが俺の知っているベーシックなモンスター。
だけどこいつらからはやっぱり知性を感じるし、その人間の特徴を帯びた佇まいからも、どちらかと言えばハチや赤に近い存在に感じる。
「……」
「がう……」
黒い体毛のモンスター、神測によると『豹戦士:名無し』という個体らしいこいつは、勝ち残ったワーウルフの頭にそっと手を当てると目を凝らした。
品定めをするかのようなその雰囲気にこちらも緊張してしまう。
「――フ、ゴウカク」
カタコトの日本語を発した豹戦士は首を横に振った。
おそらくだが、今のが最終試練。
これに認められることができさえすれば、ここより先に進めるということなのだろう。
4 2階層、ここにいる奴らからすればそこは夢の地なのかもしれない。
鳥籠の中の鳥、生まれた時から飼い慣らされてるという点は俺たちダンジョン街の人間に似ている。
「――センタク、シロ」
豹戦士は腰に提げていた剣をワーウルフの足下に投げ、さらにはその手に何かを握り込ませながら拳を突き出した。
戦ってその立場を奪うか、次の糧になるか……その何かを受け入れるか。
「が、う……」
「ワカッタ。ケントウヲ、イノル。オマエラモ、ミテオケ」
暫く悩んだ末ワーウルフはその何かを選択したようで、そっと手を差し出した。
すると豹戦士は少し表情を濁らせつつ、その手を開き1粒の種をそっと手渡した。
そしてこれから一体なにが起こるのか、不穏な空気を漂わせて、豹戦士は俺たちを諭すように声を掛けてきた。
俺たちはそんな豹戦士の言うがまま、ワーウルフを見つめる。
「……一応やっておくか。神測」
――ガリ。ゴクン。
ワーウルフが種を噛み、それを飲み込む音まで俺たちのもとに届く。
見た目はなんの変哲もなく、強いて言うなら大きめであることぐらいしか特徴のない種。
ただ、俺の神測結果は……。
『一部効果がレジストされました。ダンジョン創造者の世界におけるアイテムであるため、補完までのプロセスが構築できなかったと推測されます』
予想以上の代物であると教えてくれた。
「これって……おい、話せるならあれについて」
「――ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
種の出どころ、その効果、不明な点を豹戦士に聞こうとした矢先だった。
種を食べたワーウルフは絶叫し、体毛を白く変えながらも、抜け散らして……絶命。
結局このままリポップしたモンスターに喰われるという運命を辿ってしまった。
「ヤハリ、ウケイレニハ、キョウジンナカラダ、ヒッス。マズ、ココヲ、ヌケナイト……。オマエタチハ、ドウダ?」
死んだワーウルフを悲しむように見つめると、今度は俺たちの強さを確かめようと豹戦士が近づいてくる。
「これって……。まさか、こんなところまで……」
そして、そんな豹戦士など気にする様子もなく、山吹は死んだワーウルフを見つめ続けるのだった。




