241話 闘技場
「――なぁ、もし言葉が分かるなら反応して欲しいんだけどよ。俺仲間が欲しくて――」
「がう!」
ワーウルフは唐突に山吹の話を遮って大声で吠えた。
そして少し目を閉じて息を整えたかと思えば、その毛で剣を作った。
攻撃……って感じじゃなさそうだけど――
――ドサ。
「え?」
ワーウルフが自分の腕を切り、地面に落ちた音。
肉の生々しく新鮮なそれは嫌悪感を駆り立てるよりも先に俺を驚かせ、間の抜けた声を上げさせてくれた。
一体なにを思ってこいつは……。
「がう!」
「は?」
「がう!」
「なに? もしかしてそれ受けとれってこと?」
ワーウルフは切り落とした腕を拾い上げて山吹に手渡そうとする。
行動が大袈裟にもほどがあるが、契約のことをすでに理解していて山吹のもとに下ろうとしているのか?
そもそもこいつにはなぜか支配者の圧、スキルが効いている様子がなかった。
こういった反応を見せるのはそんなにおかしなことではないのかも。
「いやいや俺たちはそんなの受け取れねえよ! 別にそれが欲しくて戦ってたわけじゃねえしさ!」
「が、う……」
ワーウルフは山吹の言葉にガックリと肩を落とすと、観覧席を見た。
そして軽く首を振る。
『――リセット、リポップ。敗者の選択を受理。勝者の選択を待機。……。確認出来ず。先に新たな強者生産を開始』
すると階層全体にアナウンスが流れた。
それはいつも頭の中で鳴るあの声と同じで、どうやらこれもスキルなんだと理解させられる。
そしてその言葉からなんとなくだが、ここの仕組みを察することもできた。
やはりここはコロシアム。
戦場の場でなにを目的もしているのかは分からないが、勝者を、強者を排出するための施設。
だから……。
「「がああああああああああ!!」」
「敗者は次の強者の糧になることができる。多分今のワーウルフは山吹に自分を食ってもらおうとした。でもできなかったからこうなった。こうなる選択をした。……ここでの対戦相手はある意味で仲間ってことか」
そこら中にあった穴からモンスターがわんさかと湧いた。
種族はバラバラでワーウルフ、ケンタウロス、鳥獣剣士といったどれも人に近いモンスターたちだが、敗者を貪るその姿からは人らしさはまったく感じられない。
そうして次の戦いが始まり、モンスターたちは殺し合う。
中には途中で手足をもがれ、リタイア……そのまま観覧に回るモンスターもいた。
どうやらあそこにいるのは途中で敗けた者たちで、その傷が癒え、再び戦える時を待っている者らしい。
ただよく見ると、頬はこけ、戦闘とは別であろう鞭の跡のようなものがあることが分かる。
きっと、そうして生き残った者はここの運営の奴隷として劣悪の環境の中暮らしているのだろう。
まさに弱肉強食の世界。
俺も山吹もあまりの光景に口が塞がらない。
まさかモンスターがこういった仕組みを構築して、従っているなんて思わなかった。
41階層以降のモンスターは知能が著しく高いようだ。
「――くああああああああっ!!」
そうこうしている間に新たな勝者が決定。
けたたましい雄叫びが響き渡る。
――ガシャ。
すると今度はモンスターがリポップするのではなく、観覧者だった数匹のモンスターによっていくつかある内の鉄格子の1つが開かれ、明らかに雰囲気の違う黒い体毛が印象的なモンスターを迎え入れたのだった。




