238話 アガる
「くっ!ダメだ! バリアを張ったままじゃろくに動けねえ! それに走り出すにしても絶え間なさ過ぎんだろ!!」
10発20発30発なんて生ぬるい数じゃない矢の雨が次第に着弾。そこら中で爆発を始めた。
いくらダンジョンの壁や階段が硬いからってこのままじゃ崩壊しかねない。
――ひゅう!!
「後ろからもっぽいな」
「おいおいそこまではカバーできねえぞ!!」
矢の進む音は後ろからも聞こえ始めた。
山吹のバリアは前方に広いだけ。
後ろからにはなんの守りもない。
魔法陣を展開する間にも背中を爆発されかねない、となると……。
こうするのが正解か。
「よっと」
「お、おい!なにして――」
「そのままバリアを展開してくれ。俺お前を担いで進む。階段通路なら一本道で案内もいらないしさ!」
――ドンッ!!
俺が山吹を尻が正面になるよう脇に挟み込んでから数秒。
やはり後ろからの矢が俺たちを狙い、炸裂。
ギリギリ山吹のバリアが間に合ったようでダメージはない。
ただ、前方でバリアを張る山吹が後ろになったことで俺は重大な仕事をこなさなければならなくなる。
「神測。矢の位置と着弾時間、それによるダメージと軽減行動」
『爆風によりやや遅め。次着弾まで10秒。全方位。ダメージ中。これを0ダメージにするための防御剣撃を模索、自動発動。……補完完了』
それは山吹と俺がこの場を乗り切れるように、この剣で邪魔な矢を掃けること。
今日はハチが作った剣じゃなく、俺がその辺の鉱石で作った簡単な一振。
でもそれがある意味功を奏したのか、神測の効果で勝手に矢に向かわせたそれは矢じりを捉えても切り落としきれず、代わりにバットで撃つように跳ね返してくれた。
――ドンッ!!
そしてその1秒後に炸裂。飛んできた矢の多くをそれによって撃墜できた、と思う。
視界が悪いからはっきりとは分からないけど、とにかくこれなら思ったよりも効率よく邪魔は捌けられそう。
それにしても約1秒か……。
きっと着弾で炸裂というよりは時間で管理されているんだろう。
普通に爆発までの時間を考慮せず適当に叩き切っていなくて良かった。
下手したら当たった瞬間黒焦げになってたかもしれないぞ。
本当に神測様々だよ。
「よし。それじゃあ走るぞ!」
「うわ! ちょ、ちょっとすげえけど! また揺られるのかよ!! さっきしこたま出したばっかりなんですけど!!」
残像まで見えるんじゃないかってくらい速い剣捌きで、矢を返す、切り落とす。
『この速度の場合爆風ダメージの危険あり。0ダメージ維持のため強制減速。……終了、もとの速度に戻ります』
神測は矢の選別をしながらも、走り始めた俺のために0ダメージを継続できるようさらに仕事をしてくれる。
心地よいアナウンス、心地よい爆発音、心地よい悲鳴。
ではないけれど、長期間探索の幕開けにはこれ以上ないファンファーレ。
あんまりテンションの上がるお仕事とは思えなかったけど、これは……。
――ドンッ!
「うおっ! ち、近場でば、爆発したって! もっと! もっと慎重に!じゃないと俺、酔う前に――」
「ぶちあがっちまうな!! 山吹!!」
「なんでこんなんで興奮してんのあんたは!! って、速度上げすぎぃ!」




