236話 子供なんだから
条件を達成することにより取得できるようになったスキル『分配』。
あの神宮から読み取った力の1つなんだから強力ではあるんだろうけど、そこまでそそられない。
というのもなにをどう分配できるのか推測しようと、会長や神宮を思い浮かべるんだけど……なんというか、神宮は不透明だからともかく会長の自力は努力すればどうにかなるってレベルな気がして、そんなに効果を受けているようには思えなかった。
きっとそのバフを受けたことのある宮平さん家の人たちにしたってそう。
とりあえず使わないより使ったほうがいいよね、程度なんじゃないか? ってどうしてもマイナス思考になるんだよな。
そんなに深い階層、『ここから』先に進む必要は本当にあるんだか――
「――う、うぉえっ!! 酔った……。筋肉痛&乗り物酔い。悪いけどちょ、ちょっと休憩させて……うっ」
「だ、大丈夫でしょうか……。やっぱりこの人は同行させずに私がついていきましょうか?」
「う、うーん……」
「大丈夫!! 俺が案内するって約束したんだ! それに俺は俺の力で、契約を結んで、あんたにも俺のことを……うっ」
ただいま赤が住みかにしていた40階層に到着。
山吹が病室にいた時から1日過ぎた後の……お昼くらい。
赤に移動手段となってもらうお願いをして、全速力でかっ飛ばしてもらったのだが、それが逆効果。
赤の背中の乗り心地は最悪で揺れまくり。
俺は前にも1回乗ったこともあるし、耐性を獲得できてたみたいだから良かったけど、山吹はさっきからグロッキーで見てられない。
昨日は俺が無理を言ったとはいえ、1から10の階層に回路を巡らせ、さらには俺のスキルで見つけたモンスターの位置情報を映像化したものを各階の担当探索者と苺にインストールしてもらって大活躍。
映像があるおかげで苺がそのモンスターとどう接すればいいか予測を立てやすくなり、モンスターと対話する負担の軽減と効率をアップすることに成功。
道の整備と警備は急ピッチで進んで、山吹は正にヒーロー扱い。
代わりに体力やなんかを消耗したようで、筋肉痛が激しいとか言うからわざわざ赤に移動を頼んだってわけ。
「はぁ……。分かったわ。じゃあ約束通り成果を待ってるわね。それじゃ私は行くけど、予定より早く戻ることになったらすぐ連絡して。って、陽葵様が」
「了解」
約束。
それをしたことを山吹に念押しすると、赤は竜の姿に戻って飛び去っていった。
昨日1日、俺はずっと山吹と一緒にいたわけじゃない。
だから今日赤がこんなにもすんなりと山吹を背に乗せたことに驚いた。
約束の内容は分からないけど、そのことと関係があることは間違いない。
さっき山吹が吐く直前いい掛けたことから察するに、自分を認めさせるとかそんな内容なんだろうな。
それで成果が欲しくて必死で……つくづく山吹ってやつは子供なんだよな。
「――お、おい。おーい」
「ん?まだそんな経ってないけど大丈夫になったか?」
「いや、まだ気持ち悪いのは変わらないんだけどよ……その、出発前のもやもやがまだあんだよ」
「……トイレか?なら携帯トイレか……簡易トイレの作り方をこの際教えておこう――」
「違う! そうじゃねえ! そんなことより重要なことだよ!」
「な、なんだよ大声出して。まさか、この先にいるモンスターって俺よりも強いとか――」
「ん!!」
山吹は思い切り自分のバックを開けて見せた。
申し訳なさそうに、でも堂々と。
そしてその中身は……。
「お菓子?」
「すまん! 300円までじゃ無理だった!」
ははは。いや、それはいくらなんでも子供過ぎるだろ!




