231話 病室
「……ん、んぅ」
「あ、起きたか? 大変だったんだぞ、ムキムキの男をここまで連れて帰るの」
「並木、遥? ……。……。……。あっ! 俺、血を吐いて……。あれ?痛く、ない?」
目を開けてまだ数十秒。
だってのに山吹は俺なんかよりもデカい声を病室に響かせた。
出血量に謎のスキル。
他人にも影響が出ないか分からないということもあって個室を用意してもらって正解だった。
「探索者の先輩、お医者様、協会の人たち、みんなにあとでお礼しておけよ」
「あ、ああ。それで俺はあの後どうなった?」
「それは……」
大変だった。滅茶苦茶に。
まずこいつがやたらと重くて運ぶのが大変だった。
ダンジョン内で救急車を呼ぶことは一応可能ではあるんだけど、狭い出入り口を抜けてある程度奥まで走らせた場合思ったよりも時間がかかる。
そこで俺はダンジョン内では救急車を呼ばず、外で待ってもらうことにし、山吹を担ぎながら全力で出入り口まで走ったのだが……これが想像以上に辛かった。
大きくレベルアップしたこともあってそれなりに自信があったのに、まるで岩でも運んでるのかと錯覚してしまうほどで、俺の両足は絶賛筋肉痛中。
しかも後で合流したハチにはやっぱり一緒に行けば良かったってぐちぐち言われて、陽葵さんには筋トレが足りてないからと勝手に筋トレメニューを組まれてしまった。
苺にはあの場所を伝えると同時に、戦闘による特訓の約束までさせられて……。
大変だった、というか大変になったのほうが正しいかな。
「身体の方は問題ないってさ。俺の方でスキルによる問題も探ったけど、これも今のところは問題なし。明日からはあの場所、自分の家の整理を思う存分するといいさ」
「家……。もしかして公式にok出た?」
「取りあえず期間限定で、だけどな」
「よっしゃ――」
――ガラ。
山吹が嬉しそうにガッツポーズすると、病室の扉が開いた。
山吹の容態を気にしていたのはなにも俺だけじゃない。
「遥様! お昼ごはん持ってきたわよ!」
「あ、もう大丈夫そうなのね」
「……本当に普通の人間、なのね」
いつものように陽気なハチと安心した顔の陽葵さん、そしてそれに隠れるようにしてついて回る赤。
「こんな大勢……お見舞いありがとうございます! ろくに話したことないけど! あっ! 弁当もありがとうございます!」
「あ、はは……元気そうで良かったわ」
遠慮をまったく感じない態度で陽葵さんから弁当を受けとると、山吹はさっと手を合わせて早速食事開始。
丸一日寝てたんだ、腹がへってても可笑しくない。
「陽葵さん、みんなの状況はどうですか?」
「順調よ。特に怪我もなくどんどんモンスターを仲間にして、下の階までの通路を確保してくれてる。資材の方もちょっとずつだけど移動できるようになっているし、今週中には避難も進められると思うわ」
「そうですか。じゃあひとまずは大丈夫そうですね」
「ええ。これも遥君のスキルのおかげと苺ちゃんの頑張りあってのものだわ。あの子、すんとした顔なのに凄い熱量なのよ。私も頑張らなきゃ」
両手を丸めてぐっと胸元まで腕を寄せる。
陽葵さん、今日は私服なだけじゃなくて珍しく胸元が開いた服を着てるからやたらとそこが強調されてる。
セクシーだと思うけど、それ以上に心配が勝るよ。
「それでこの人、スキル情報を読み取ることができたんですよね?それも、地上の人間に触れて」
「んぅ、わたひも、それ気になってゃの、赤」
話しているまに赤とハチはちゃっかり自分の弁当と椅子を確保。
和やかな雰囲気とは別に赤は険しい表情で山吹の顔を覗き込み、ハチは口に食べ物を含みながらはしたなくそんな赤に同調したのだった。
というか、この二人の距離感近くなってない?




