23話 課金のため
「それは非常に難しい問題だ。というか、それができたとしてスマホの充電は大丈夫なのか? 結構ゲームアプリをやり込んでいるようだが」
「一応水力を使って発電していて、このスマホ? に使える充電の線も奪っているから、なんとかなってるわ。ただ、それが大変で大変で……。人間はこんなことをしないでも、充電できるシステムを保有しているのよね? やっぱり賢い、賢すぎるわ人間って」
人間は賢いというのは戦闘中にも聞いたが、その印象の出どころはこっちがメインな気がしてきた。
それにしても、水力発電を用いてまでゲームにのめり込むなんて、よっぽどゲームが気に入ったんだな。
それだけに、この先の事実を伝えるのが怖い。
「それで、非常に難しいってどういうこと? もうこのSSRピックアップ期間が終わっちゃいそうなんだけど。私なんでもするから、この石を増やす方法を教えて!」
「分かった、分かったからそう慌てるな。……ふぅ。その方法を教える前にまずその課金について説明してもいいか?」
「お願い」
戦闘の時にも見せなかった真剣な表情。
一体どれだけ魅力的なゲームだっていうのか……。
「……。まずその『円』というのが見えるだろ? それは人間の、日本の通貨単位だ」
「通貨?」
「食品や道具など、様々な物品と交換できるアイテムだ。そしてその『石』を買うにも必要なものになる」
「そ、それはどこで手に入るの? ダンジョンでは手に入らないの?」
「ダンジョン内に居ては一生手に入らないだろうな。それに手に入ったとしても通貨を電子データに変えてやらないと『石』は手に入らない」
「な、んですって……」
ハチは項垂れたかと思いきや、地面に手と膝をつき土下座に近い体勢をとる。
端から見れば面白いが、本人は相当絶望を感じてしまっているようだ。
「そもそも課金はあまりお勧めしていないのだが……。どうしても課金をしたいというなら1度ダンジョンを出るしかない。ただ、ハチ1人で通貨を手に入れ、しかも電子データに変える、つまりそのための賞品であるプリペイドカードを購入するのは不可能。必ず人間の力が必要となる」
「人間の力……。お願い! あなたの、ご主人様の力でどうか、どうか私に課金をさせてください」
「……。分かった。ただし、ハチ。お前のためだけに俺が外に出てそれをまた持ってきてやるのは旨味がない。だから俺はお前に条件を出す」
「条件?」
「ハチ、それに竜たちには俺を引き立たせる役を演じてもらう。そして、その結果俺と共に人間のいる場所で暮らすことになろうとも、駄々をこねない。これがお前に課金をさせてやる条件だ」
「人間と一緒に暮らす……」
戸惑っているな。
きっとモンスターと人間が敵同士だということを十分理解しているだけに、その住処に自分が住むということのリスクの高さを感じて――
「それができるなら最高じゃない! 充電も自由! 美味しいご飯がずっと手に入る! なにより課金もできる! 常々人間の街を襲うのはめんどくさいと思っていたところだったのよ!」
「い、いいのか? 本当に? 人間の街は人間だらけなんだぞ」
「分かってるわよ、そんなの。でも、たとえ人間が襲ってきたとしても、ご主人様がいてくれてさえいれば、無防備な時、冬眠中であっても大丈夫でしょ?」
「それは、そうだと思うが……。万が一にだな――」
「じゃあそうと決まれば、できるだけ早く上に向かうわよ! あ、そうだ水路を使うけど、ご主人様は呼吸に制限があるから……ちょっと試させてもらうわね」
思いがけず乗り気なハチは、試すと言いつつ、人間ならざるところまで大口を開けると、俺の頭を見事に飲み込んだ。
お読みいただきありがとうございます。
モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。




