226話 創造
『スキルの利用条件に合致。……スキルをステータス上に発現しました。スキル名は家事強化。家事に関する特定のアイテムを【創造】と口に出すことで具現化、また対象物を選択した後、強化することが可能です』
「どう? スキル問題なく使えそう?」
ひとしきりアナウンスが流れると、山吹はそれを察したように声を掛けてきた。
情報の取得からスキルの受け渡しまで可能……条件はあるみたいだけど、便利で終わらせていいレベルじゃないぞこれ。
えっと、説明を聞いた感じ清掃用具とかも出せるんだよな。
「……創造」
山吹の質問に答えるように俺はスキルを発動。
すると何もないところに黒く輪郭が浮かび上がり、だんだんと頭に思い浮かんだものが具現化していく。
掃除用具の雑巾、バケツ、ほうき、塵取り、それだけじゃなく掃除機なんていう家電までも。
「おお! こんなもんまでいけるのか、このスキル!」
「山吹がくれたスキルなんだけど……。そこまでは分かってなかったのか?」
「大まかにしかわかんないもんでしょスキルなんてのは。その人のレベルとか使い方に影響を受けたりもするし」
「それは、そうかも」
「てなわけでこっちの掃除は頼んます! 俺はまだ外にようがあるんで――」
「なんで全部俺に任せるんだよ!ここにはお前が住むんだろ!」
「……おで掃除、苦手。あ、あとでお金払うからさ。いよね、ね?」
こいつ……。
敬語なしのルールとかいきなり距離感が近くなるようなことさせなければ良かったかも。
でもまぁ家事って嫌いじゃないし、対価がもらえるなら
……あ、そうだこの機会に一気に頼んでみるか。
「分かった。掃除はやる。でもお金はいらない」
「お、太っ腹――」
「ただし、手に入れたスキルを開示。俺の時みたいに導入をお願いしたい。それと、他階層に回路を引いて欲しい。こっちに関してはお前向けの契約モンスター探しにもなるわけだからWin-Winだろ?」
「それは強欲過ぎない?」
「ならやらない」
「……了解。いやぁ今日だけで並木遥の印象がらっと変わったわ」
やれやれと呆れて見せた山吹を確認すると、俺は早速ほうきに手をつける。
まさかダンジョンでこんなことするなんて思わなかった。
「え、掃除機使わないの?」
「まずは『冷凍保存』を発動させているスキルイーターの死体隔離と他の死体の片付けをしながら簡単な掃き掃除。掃除機じゃ大きいゴミを吸ったりできないだろ」
「なんかイキイキしだした」
「掃除機とかその辺のは取りあえずそっちに寄せといてくれ。そのくらいはできるだろ?」
「はいはい。あーあ、全部この掃除機1つで終わらせられたらいいのに――」
――バチっ!!
山吹が面倒臭そうに掃除機を持ち上げると、今日何度も目にしたあの発光現象が唐突に起きた。
掃除機に浮かぶ回路と、驚く山吹。
山吹にとってもこれはイレギュラーなことだったようだ。
「だ、大丈夫か?」
「そうか……俺のスキルってこういった家電製品との相性も良かったのか。これを使えば、もしかすると……」
「おーい。何が起こったのか説明できるか?」
「取りあえず……掃除、めちゃくちゃ楽になったかもしれない」
……。それ、俺の家事を楽しむターンが減るってことでいい?




