224話 寒っ
「それは……見せてやった方が早そう。まぁ、まずは中に入ろうぜ。話はそのあとだっていいじゃん」
そういうと山吹は躊躇なく一歩、また一歩と進み出した。
誰か人がいるような気配は今のところ感じられないが、万が一ってこともある。
念のためもう一度索敵だけはしておこう。
特殊な場所だ、さっきの神測にこの中は含まれなかった可能性もある。
『神測。モンスター、また山吹とスキル主を除く人間の存在無し。ただし、死体は確認可能。モンスターのスキルが発動されていることを確認。情報の補完……スキル名【冷凍保存】。スキルの効果を自動神測。補完。スキル主及び他者による干渉を可能にすることに成功しました』
「スキルが、発動されている?」
思ってもいない神測結果に俺はつい足を止めた。
敵はいないようだし、スキルの効果も問題はなさそうだが、まずはそっちを確認したほうがよさそうだ。
最悪、あいつらの隠し玉的な存在が神測の網を潜り抜けて『冷凍保存』で眠っている可能性もある。
「ちょ、おい! 見せてやるって言ってんだから普通俺について来るとこだろ、ここは!」
「それは確かに気になるけど、取りあえずそっちにはなにもない。なら優先順位が高いのは倉庫の方」
「何もないってなんで分かるんだよ。それもそのスキルの力か! ……いや、でも。……。と、とにかく待てって!」
倉庫に急ぐ俺についてくる山吹。
少し落ち着いたのか、自分が消耗していることを思い出して辛そうだ。
あんまりこういうこと思うのって良くないんだけど……こいつが人並みに辛そうにするのを見てると、やっぱり 普通の探索者なんだなってちょっと安心するよな。
「――重、い……」
「お、おい。馬鹿力なんだから壊すなよ」
そうして俺は倉庫の前まで到着するとすぐさまその扉の取っ手に手を掛けた。
扉がやけに重いのは、それだけ中に重要なものを入れているから。
つまりはスキルイーターたちのことなんだけど……この中に死体がゴロゴロあると思うと少し怖い。
側面の高いところが雷撃で焼け落ちているからそっちから確認して入っても良かったかな――
――ヒュウ。
「さ、寒っ!! な、なんだってこんなに……」
「発動されているスキルからしてそうなのかなって思ってたけど、想像以上だな。外に冷気は漏れてなかったし」
扉を開けると一気に冷たい風が吹き抜けた。
冷蔵庫の中というよりは冷房をあり得ないくらい下げた部屋って感じ。
あくまで『冷凍保存』の効果は対象選択できて、この寒気はその影響を受けただけ、だと思う。
ともあれ、こっちまで凍ったりはしない程度の寒さではあるから中の探索はできそうかな。
「お邪魔します。……やっぱり、いたか。死体がわんさかと。でも……思ったよりも少ないか」
扉の向こうでは雷撃に当たり黒く焦げたスキルイーターたちがその場で何体も何体も凍っていた。
一応この状態でもまたスキルイーターを作る素材にはなるのか、回収されたような跡がある。
これは神宮が? いや、あいつ自らそんな面倒するかな?
「こ、こいつらってあの壁の向こうにもいた……。そうか、こっちにもこんな数がいたのか」
「ああ。ダンジョン街でこっそりとスキルを喰って、しばらくここに保管された後地上に運ばれてたらしい。今は死んで確かめようがないけど、多分全員スキルを持ってたんじゃないかな?それも、わざわざ喰らうくらいだからそれなりに有用なスキルを持ってると思う」
「へぇ……。それじゃあ、それは利用しないとじゃん。こんだけ肉体が残ってるなら簡単に情報を吸い出せる」
ニヤリと口角を上げた山吹は手を擦ることをやめて、床に両手を着くと、その身体に電気を纏わせてバチバチと発光して見せた。




