22話 我慢がきかない
「全て、か。具体的には何ができるんだ?」
「言った通りよ。例えば……そうね、私にその目を貸してと命じてみて」
「……。ハチ、お前の目を貸して欲しい」
「了解よ。ご主人様」
ハチに言われるがまま命じると視界が切り替わった。
他人から見える自分の姿ってこういう感じなのか。鏡で見るより隈が目立つな。
「こうして見ている景色を共有できるのよ。自分の視界に意識次第で切り替えもできて、他にも2画面にしたり、映像を重ねて、どちらかだけを小さい窓として見ることもできるわ」
「便利だな。ハチはこれでいろいろな階層の監視もしていたんだな」
「ええ。音声に関しても、似たように命じれば色々と自由が利くし、手や足を遠距離操作することもできるわ。いくら私が美人だからって、エッチなことはちゃあんと了解を得てね」
「その予定はこれっぽっちもないが、分かった」
「あら、それは残念。って、え? これ用のお湯湧いたの? あなた提案する前から食べる気満々過ぎでしょ。ご主人様、私お湯をこれに入れてくるからゆっくりしててね」
ハチは近くにいた竜にあきれると、1度この場を去った。
家の中はかなり広く、竜たちも窮屈そうな顔をせず、自由に暮らしているようだ。
こいつ以外の顔は見えないが、他はハチの体内にでもいるのか?
「……。そういえば、お前が気体になりながらも生き延びてくれたから何とかなったんだよな。1度殺された相手からこんなことを言われるのは違和感があるかもしれないが……助かった、ありがとう」
「がぁぁ」
ベッドの近くにいた竜は、撫でてやると嬉しそうに鳴き声を上げた。
モンスターは殺す対象。モンスター視点だと人間は殺す対象、餌。
それだけの関係でしかないと思っていたが、まさかこうやって仲睦まじく触れ合う機会があるなんてな。
「――あとは3分待つだけ……。って、私を出し抜いてなんであなたがご主人様と仲良くしてんのよ」
「嫉妬、か?」
「し、ししししし、嫉妬なんてしてないわよ! ほら! そのうちできるからこれ持って!」
「ああ。ありがとう」
帰ってきたハチからカップラーメンを受け取る。
モンスターにもツンデレという属性が存在するんだな。
「ふふ……」
「な、なによ?」
「いや、さっきまで殺しあってたのに……。不思議だな」
「それはご主人様の適応力も関係あると思うわよ。私が言うのもなんだけど……。なんというかもっと警戒した方がいいんじゃない? 大体人間たちは恐れが足りないというか、攻めっ気が――」
「そうだな。警戒は大事だ。仲間になったのだから、ずっと要求していた『あれ』について教えてやろうとも思ったが、そのリスクを考えて――」
「スマホ!? お、教えてくれるの!? あ、あの、それがね――」
「ちょ、ちょっと待て、まずはこれを食べてから――」
「じ、実はそれみんなで食べるように作ったの! ほら、あなたもいただきますをして! 熱いうちにさっさと食べちゃうわよ!」
「お、おいお前ら! 危ないって! おい!」
少しからかってやろうと思ったのが、仇となってしまった。
竜とハチは3分を待たず舌を伸ばし、一気にすすり上げたせいで俺はほとんどカップ麺を食えなかった。
モンスターは我慢がきかない。
分かっていたはずなのに……。
見た目が人間なの、ズルくないか?
「はぁ、まあいいや。スマホの何が分からないか教えてくれ」
「え、えっと! これ! この『石』って言うのを増やしたいのよ!」
俺が聞いてやると、どこからかスマホを取り出したハチは、ゲームアプリのマイページ画面を俺に見せてきた。
なるほどハチのやつ、課金したかったのか。
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