214話 対策会議
「――では皆さん、今からは本格的に会長、神宮、地上の人たちによるダンジョン街への侵攻対策をしていきましょう! 協会から他の企業に呼び掛けて物資の移動準備を進めてはいますが、やはりダンジョンに拠点を構えるとなると皆さん、探索者や竜の協力が必要不可欠……って、大丈夫ですか?」
翌日。
楽しさと嬉しさだけじゃなく、これからに対するやる気を鼓舞する宴会が終わり、俺たちは会長の部屋だった場所に集まって会議をしていた。
京極さんのハキハキした声と、まだ直っていない窓ガラスの間から流れ込んでくる少し冷たい風、朝の日差しが俺たちの頭をいつもより冴えらせてくれ――
「うー、彩佳ぁ。頭痛ぁい。お水頂戴」
「わ、私も……」
「大喰らいの竜が2匹、いや2人ダウンですか……別に大した量飲んでないでしょ?」
冴えていないのがまず赤とハチ。
これからは竜仲間だからって盃を交わしていた昨日は微笑ましかったのに……。
というか、一番飲んでへべれけだった京極さんがまるで何もなかったみたいに元気なのおかしくないか?
「はい。2人とも水よ。それで、私たちはどうすれのばいいのかしら?」
そんな2人に水の入ったペットボトルを手渡す陽葵さん。
京極さんほどじゃないけど、陽葵さんもやたらと酒が強い。
「赤君のいた階層……は難しいとは思いますが、ハチさんがいた階層であれば拠点を作れるんじゃないかと思っていてですね、陽葵さんたちにはその道の安全確保をお願いしたいです」
「安全の確保……それは大変ね。だって――」
「モンスターは短時間でその階層から湧くその種族全てを倒しきらない限りリポップ、無限に湧いてきます。元々個体数の少ないモンスターであれば絶滅に追い込むこともできるかと思います」
一転して真面目な会話が始まり、その場には適度な緊張感が流れた。
特にモンスターの絶滅という言葉に苺と宮平さんは顔をしかめた。
きっと昨日見たオーガたちが頭に浮かんだのだろう。
モンスターを殺すことに躊躇いが生まれたというわけじゃないとは思うけど、万が一苺のお母さんのような個体がいた場合のことを思うと、やはり全てを殺すというのは賛成しがたいのかもしれない。
「ただし、これは現実的ではありません。あまりにも時間がかかり過ぎます。それに、モンスターがリポップすることで魔石やその素材、経験値が取得できることもありますからね」
「そ、そう。良かった」
「苺……。俺もそう思います。でもじゃあどうやって安全の確保をすれば?1階層みたいに一部壁を作って、既に道を舗装するなんて、それこそこの短時間じゃ無理ですよ」
安堵の息を漏らす苺と宮平さん。
不思議そうにするリーダーの視線、この人はまた俺と陽葵さんみたいに変な気を回しそうだな。
「探索者が常に警備をするのは?」
「浅い階層までならそれでいいかもしれませんけど、深い層はなかなか難しいです。対応できる探索者の数も多くはないですから。しかも連日となると、当日はバテバテで戦うどころじゃないかもしれません」
「うーん、確かにそうかもしれないけど……」
この反応、多分質問した陽葵さんからすれば、無理難題じゃないんだろうな。
忍耐力というかそういう部分でこの人はちょっと他の人とは違うから。
それこそ、S級……天才って呼ばれた理由。
「……。陽葵さんの案悪くはないです。ただですね、それが人間ではなくて恒常的にいる存在がしてくれるなら、どうです?」
しばらく沈黙が続いたかと思えば、京極さんは得意気に、嬉しそうに口角を上げた。
モンスターを広く多く人間の仲間に引き込む、それはこれまでのダンジョン街の常識から外れた提案だった。




