210話 気まずい
「今のは……」
映像は途絶え、元の視界に戻った。
まさかこんなものを見ることになるなんて思ってもいなかったから、今はいい言葉が見つからない。
壁の前で泣きじゃくる苺とそれを抱きしめる宮平さん。
あんまり意識したことはなかったけど、2人の関係って俺が思っていたよりも深いんだろうな。
それこそ俺と陽葵さんくらい……。
いやいやいや、俺があんな風に陽葵さんを抱きしめてる画なんて想像できないし、恐れ多い!
それにそんなことしたら陽葵さんは嫌がるかもしれない。
憧れの人、嫌われるのなんて当然嫌だ。
……じゃあ、でも、あり得ないけど好かれるのは……。
「あー、もうなに考えてんだよ俺。空気読んで退散しないと……」
顔に火照りを感じつつ振り返ると、俺はさっきの映像を思い返して歩き始める。
「にしても、だよな」
気になったのはまず神宮のスキル。
『捻時』とかいう移動の手段としても、強襲するにしても便利すぎるあれは厄介。
ただ結局のところワープしているわけではないから、完全に裏をとられるってわけじゃないと思う。
映像を見る限り効果の及ぶ時間も短そうだったし……この辺りも考慮して何か策を講じないと。
他にもダンジョンに出入り口を作られるスキルとか、建物を建設されるスキルもまずい。
戦闘開始次第、ダンジョンに拠点を張られれば……。
長期間の戦いは絶対に避けたい。
他にもスキルイーターから吸い上げたレアスキルを使えるだろうけど……神宮だけのユニークスキルがまた別にあるってのは気が気じゃない。
戦闘はそこまでっていう自己評価があるみたいだから単純な攻撃スキルではないだろうけど……。
敵情報はできるだけ確保しておきたい。
もしかするとその痕跡が残っているかもしれないし、苺たちが住んでいたっていう場所を調べてみようかな。
あと気になったのはやっぱり雷の竜。
強制的に召喚されたことで人間に恨みを持ったりしていてもおかしくはない。
強いのはもう当たり前だとして、それが敵に回るかどうかが気になる。
まぁこれまでで一切問題にも話題にもなっていないことを思えば、もっと深い場所でじっとしてはいるんだろうけど……なにか思い立ってハチみたいに地上に干渉しようとすることもある。
神測で残りの竜の位置把握、あとはこっち側にまだスキルイーターが残っていないかのチェックも――
「――遥君! 迎えに来てくれたんだろ? 悪いけどもう少し待っててくれないかな」
ほんの少し歩いたところで思いがけず宮平さんが声をかけてきた。
遠くからでも聞こえるように大分声を張って。
どうやら俺が2人を見ていたことはバレていたらしい。
「ん……ぐす……。……。……」
「ごめん。あんまり見られたくなかったよな」
振り返ると宮平さんと目を赤くした苺が近づいてきていた。
もう泣き止んではいるけど、かなり気まずい。
「えっと……その」
「泣いたら疲れた。……お腹減った。えっとぉ……腹が減っては戦はできぬ?」
「そ、そうなの?」
「ん!だからそれじゃ足りない! 今日はみやと私もいるからいっぱいいっぱい作っても大丈夫!」
「良かったね、遥君。今日は思う存分趣味に没頭できるぞ」
「……はい?」
「そうと決まれば、買い出し! まだ開始時間まで余裕あるから! 大丈夫、お金はみやが出す!」
「おいおい! って言いたいところだけど……まあ今日ばっかりは仕方ないよね」
なんか俺、勝手にみんなのご飯作る流れになってない?
いや裁縫とか料理とか、特に最近はハチのせいもあってハマってはいるけど……迎えに来たってどういうことなの?




